恩田陸の短編集、「歩道橋シネマ」を読む。
短編だけに、言葉数が少ないというか、説明が限定的というか、そういう側面はあるのだと思う。だから頭で理解しにくいあるいはし難いものがあった。
それでも鋭利なものが心に刺さるような瞬間もあったりもして。その刺さったものが抜けないうちに次の話を読み始めてしまうとまた頭が追いつかなかったり。そういう理と感がないまぜになってしまうような、不思議な読書体験だったと思う。
ホラーあり、ミステリーあり、SFっぽいのもあって、とても同一作家によるものだとは思えない作品のバラエティさも、そうした感想を増大させるものだっのではないかと思う。
わずか2ページ半の作品もあったり。
「皇居前広場の回転」や「悪い春」では、著者自身の内面や“声高ではない主張”を垣間見たような気がしたな。
「球根」「あまりりす」「ありふれた事件」あたりはホラーにカテゴライズされる作品か。直球で怖いわけではなくて、読み終わった直後に背中のほうからジワジワと恐ろしさが上がってくるような読後感。
ミステリーの「逍遥」。これは好き。“日常の謎”に近いと思うのだけど、何も起こらないラストの爽快さったらない。
「麦の海に浮かぶ檻」、ストーリーはわかる。だけどエンディングがどういうことなのかまったく理解できなかった。「はつゆめ」もそう。なんだこれ?って。もしかしたら何かの作品のプロローグなんだろうか。
もし“一見さんお断り作品”なのだとしたら、それはちょっと不親切な気がするなぁ。
「惻隠」はSFチックなホラー。オチがわかってからも一度読み直す――深い深い怖い怖い。
でもなんで“同情”を意味する「惻隠」がタイトルなんだろう。わからぬ。
「柊と太陽」も近未来SFのテイストなんだけど・・・恩田さん天才。すげぇとしか言えん。
で、一番好きだったのが「楽譜を売る男」。小説ってのは妄想の世界なんだよ、ということでしょう(意味不明)。とにかく好きなんだよこれ(笑)。
本作の中にすごく印象的で思いっきり首肯してしまった一節があったので、引用されていただきたいと思う。
『情報中毒――あるいは中毒のあまり情報乞食になってしまってる現代社会。誰かがどこかで得をしているのではないか、自分だけが取り残されて損をしているのではないか、と渇きと焦燥に追い立てられている世界。そんな過剰な情報の海に溺れ、遭難している世間の人々から離れて、一人豊かな世界に遊んでいるように見える彼が、心底妬ましく、羨ましかった。』
そして表題作の「歩道橋シネマ」。
短編ならではの良さって言うのかな。短いがゆえのおぼろげな景色みたいなもの。結論づけられない答え。誰もが自由に想像できるシーン。読者である僕の描いた未来。いろんな感情が短時間に同時発生して気がついたら泣きそうになってた。でも――『まだ何も見えない。』
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