[138]
手元にそろった保険会社の書類をテーブルに並べる。委任状やら何やら、あっちゃん本人の自筆が求めれている箇所が数多い。
代筆してしまうことも正直考えないではなかったが、やはりその選択をするわけにはいかなかった。何しろ決して少なくない金額の話なのだから。それはつまりあっちゃんの近未来の話でもあるから。
書類のコピーを取り、ラインマーカーで記入箇所に印をつけ、サンプルを作成する。
これと同じことを書いてくれればいい、という見本づくりだ。
ひととおり準備し、グッドライフの相談員のマツイさんに郵送した。
「父の保険金の請求のため、母の自筆が求められています。見本を用意してありますので同じように記入してもらえれば。お忙しいところ申し訳ありません。特に急いではいませんので」
そう書き添えた。
あっちゃんの今の状態なら、どこに何を書くかまで指定されていれば、書くことそのものはできるだろう。
グッドライフのみなさんも事情は十分にわかってもらえているはずだ。待つしかない。
A保険の入院保険の請求には医師の診断書が必要とのことで、指定の診断書書式が送付されてきた。
「父の診断書のご記入をお願いいたします。費用が発生することは承知しておりますので、ご請求ください」
返信用封筒も入れてよしだ内科病院に郵送した。こちらもよくある話だろうから返送を待つだけだ。
およそ10日後、グッドライフから待望の返信が届いた。
『お母様は問題なく記入されてました。不備がありましたらまたご依頼ください』
問題なく記入できた、というメモに、こちらの不安を理解してもらえているということがわかる。ありがたい話だ。
戻ってきた書類のチェックを行った上で、まずはM保険に書類一式を郵送した。何か不備があれば言ってくるだろう。
K保険の手続きには、必要書類を受け取ったときと同様に窓口まで出向いた。
「今日はお時間は大丈夫ですか」
「はい、まあ大丈夫です」
本当はあまり時間があったわけではないが、ここは静かに待ったほうがいいと判断をした。
何度かの「確認してまいりますのでお待ちください」の後、生命保険、入院給付(最大120日分)、すべての手続きが完了した。
「1週間程度でお支払いさせていただきます」
窓口を離れるときには時計の長針が1周半回っていた。
そういえばと思い出す。
よしだ内科に診断書の記入を郵送で依頼してからもう20日近く経つ。催促をしておくか。
「先般診断書の記入のお願いを郵送でお送りしたのですが、届いているでしょうか」
『はい、つい先日届きました』
少なくとも2週間前には届いていたはずなのだが。
「お忙しいとは思いますが、よろしくお願いいたします」
『先生にお願いしておきますので』
まるで処理が進んでいなかったようだが、途中に夏季休暇があったからからな。しかたがない。