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8月最初の週末、まずは遺産分割協議書の作成に取り掛かった。
相続人はあっちゃんとわたしのふたりだけ。なので基本的には半分半分にすればいいことになるが、細かく正確に1/2にする必要はないだろう。
遺産のおおよそ6割強を占めるマサさんのメインの銀行口座を丸ごとあっちゃんの分として、残りの細かいものをすべてわたしが継ぐ、という形にしてみた。
あっちゃんが今後必要になるのは老人ホームでの生活費、つまり現金だけだろうし、マサさんのメイン口座はもともとふたりの生活費が引き落とされていた口座だから理にもかなっている。
逆にマサさんの実家周辺の細かい土地やほぼ残高のない証券口座などは二段階相続になるほうがよほど手間なのですべてわたしが直接相続しておいたほうがいい。
ここまで決めてふと思う。マンションの売却がマサさんの生前に終わっていてよかった、と。
協議書の最後には、ひな型に則って『上記以外の被相続人にかかる遺産が新たに発見された場合』はわたしが相続するという文言も添えた。
以前通帳のない銀行口座が見つかったこともあった。そういうときの対策になるだろう。
ひととおり書き終えたところで念のためSS社ウチコシ社長にメールで送付し、チェックを依頼した。
次にやることは、と。
老人ホームの「施設サービス計画書」の内容を確認し、グッドライフへ返送。
あわせて、入居費用の口座振替依頼書に再記入、あっちゃんの口座の正しい印鑑を押印してこちらも郵送した。あっちゃんが日々読んでいる新聞代の口座振替依頼書も同封した。
あっちゃんの医療保険、過払い金返還請求の届け出を提出せよという郵便が届いていたので、記入をした。
おそらくではあるが、マサさんの死亡に伴って医療保険が安くなり、結果として過払いが発生している、ということなのだと理解をした。
よく考えたら、過払いが発生しているのだから、勝手に返金してくれればいいのに、わざわざ請求書を作成させるというのは、デジタル化いまだ道半ば、ということだろう。
それから香典返しも手配した。いろいろ考えるのも難しいので、カタログギフトをネットショップ――といってもある程度の箔が欲しかったのでデパートのオンラインショップを利用した。同じシリーズで価格も選べるのはありがたい。
差出人はあっちゃんとわたしの連名にした。
少しずつ少しずつ、できることからひとつずつ。
その週の半ばは、年金事務所とのアポイントがあった。
事前に何度か提出書類については確認をしていたのだが、やはりよくわからない、記入できない部分が出てきてしまった。それについてはある種開き直ってわからないことはわからないまま、ヘタに適当に記入するのではなく空欄のまま持ち込もうと決めた。
結果的にその判断は正しかったと思う。
マンツーマンで対応していただいた係の方は、こちらの疑問にひとつひとつていねいに対応していただけたし、さらに言えばこちらの事情も十分に理解してもらえたので、ある意味「はい」と言っているだけですべての手続きが完了してしまった、そんな印象だった。
持ち込んだ住民票除票、戸籍謄本といった原本は、その場でコピーを取って返却してもらった。ではコピーでもいいのかというとそうではなく、あくまでも原本を確認した、その控えとしてコピーを取った、ということらしい。意味はわかるが、少しばかりもやもやした気持ちも残る。
書類の提出を終え、最終的にあっちゃんがもらえる遺族年金と未払い分のおおよその金額も計算してもらえた。
そうか、この金額ならあっちゃん本人がもともともらっている金額と合算すれば、潤沢ではないにせよ今後老人ホームでひとり暮らしていけるはずだ。
そのことがわかったというのは、とても大きい。
ちなみにこの遺族年金、あっちゃんが自分自身の年金を受け取っている口座ではなく、老人ホームの利用費用が引き落とされている新たなメイン口座を受取口座に設定した。あっちゃんの生活はマサさんに払ってもらう、そんなイメージだ。