2015年6月30日火曜日

プロジェクト・サーティ (8)斜陽

二度目の眠りは深かった。夢を見たという感じもない。
快調ではないがまあまあ回復した頭を振りながらベッドから這い出し、カーテンを開くとまだ少し高い西日が射してきた。
二度寝のほうが長かったかもな。[Don't Disturb]の札を出さなくても、誰も眠りを妨げないのがこの暮らしの数少ないメリットだ。ベッドからわずか数歩のところの冷蔵庫から飲みかけのミネラルウォーターを取り出し、窓の外を見やりながら飲み干した。

「静か、だな」

まだちゃんと眠りから醒めていないのか、異空間に取り込まれたような静寂を感じる。わずかに風が流れる感触が音のように聞こえるだけだ。

ひとりだからといって静寂が得意なわけではない。
床に転がったテレビのリモコンに手を伸ばす。が、平日のこんな時間はどうせくだらないワイドショーしかやってないと気づき、伸ばした手を宙に泳がせた。
リモコンの脇に放り投げられたバッグからは茶封筒が覗いている。

無意識に、いや意識的にバッグから目を逸らし、結局テレビのスイッチを入れた。そしてテレビを見るでもなくベッドにまた寝転がった。

いつもそうだ。日々の生活の中で孤独感を覚えると、必ずと言っていいほど、あの人のことが頭に浮かんでくる。

子の文字がつく名前がまだ主流だった俺たちの時代においても、志野という名はとびきり古風な名前だ。自分たちも昭和生まれだということをすっかり棚に上げて「なんだか昭和な名前だねぇ」なんて笑い合った。

そう、20歳になる少し前、俺たちは彼女に出会ったんだ。

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