[024]
保険証書類がぎゅうぎゅうに詰め込まれている引き出し、ざっと見たところ、満期になっちゃってるものなど、明らかにすでに契約が終了しているものも含まれていそうだった。
「整理してしまい込む」マサさんの面目躍如と言うか、何と言うか。
今日これを引きずり出して、すべてをチェックするのは現実的じゃないな。
わたしは力を込めて引き出しを元の位置に押し込んだ。
ただ、郵便で送られてくる保険会社からの通知が見つかって、少なくともK生命とZ生保、A生命の契約が現存することが判明した。入院の特約が付いているのはあるのか。
A生命の保険料はN銀行の口座から引き落とされているのはわかっていたが、保険の内容はよくわからない。
Z生保は、マサさんとあっちゃんが相互に受取人になってるタイプのもののよう。保険料はあっちゃん名義のクレジットカード経由で、マサさん名義のN銀行の口座から保険料が支払われていることも確認できた。
K生命は証書が見つかったわけではないのだが、第2連絡先としてわたしが登録されている契約ではないだろうか。わたしの自宅に通知はがきが届いていたはずだ。
いずれにしても、この段階で入院費用を保険で、みたいなことを考えるのは時期尚早だ。ここまで見えれば十分だとわたしは思っていた。
さらに、マサさん宛に届いてたSN証券の残高通知書が見つかった。1月に来たときもこの証券会社からの通知は見たような気するが、ちょっと記憶が定かではない。
残高は「資産」と呼びたくなる程度には大きく、わたしは、マサさんあっちゃんのためにこれが使えるといいなと漠然と考えていた。この書類はわたしが持っていることにしよう。
資産という意味ではマンションの権利書ってのもどこかにあるはずだ。わたしの意識は少し「将来」に向き始めていた。
そうこうしているうちに、よしおか病院から、院長が説明をしたいとの連絡が入った。
「お父さんとはずいぶん長いお付き合いになってるんですけど」
院長の最初の言葉は、気にかけてますよという意味だと受け取った。そもそも院長自身がマサさんを担当してくれてるわけだし。そして言葉の中に、何か差し迫ったようなものは感じない。
「脳のCT画像なんですけど、萎縮があるのに加えて、この白いところですね、脳梗塞が複数あるのは間違いないです」
「時期ははっきりとはしないんですが、以前から脳梗塞があった可能性もあります」
「現状、急激に悪化しつつあるということはなくて」
「血液検査の結果も、血圧が高い以外はさほど悪くないですね」
なるほど。ここまでの状況からある程度想像、いや、「期待」していた内容だ。
「あとは転んだときかな、腰の骨も」
少なくとも脳外科のある病院に転院する緊急性はなく、よしおか病院で1~2週間の入院、それからリハビリ施設へ、という流れになるだろうという説明だった。
「このあたりはうちの地域連携室とケアマネージャーで相談させてもらいますので」
「よろしくお願いします」
「あと、脳梗塞を原因とした手足の麻痺は残るので、リハビリをしてもご自宅に戻れることはないでしょう」
エレベーターのないマンションの4階という物理的制約、あっちゃんとふたり暮らしというソフトの問題。どう考えても「そうなる」のは当然なのだろうが、こうしてはっきりと医師に言ってもらえて、ある意味良かったと思った。
わたしの中の覚悟が決まった、そう言ったら言い過ぎだろうか。
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