[027]
マサさんの入院からおよそ10日、退院後の受け入れ先が見つかったとの連絡がよしおか病院のヤマモト看護師から入る。主としてリハビリのための施設である介護老人保健施設、いわゆる老健の「さくら老健」というところだそうだ。
担当者のオオヌキさんと連絡を取ってほしいとのことで、わたしはさっそく電話をかけた。
『こちらに入所していただく日程はまだ調整中なのですが、まずは費用を含めた施設の資料を郵送させていただきます。事前に準備いただきたいもののリストも同封します』
「わかりました。内容確認させていただきます」
『入所の日はお付き添いいただけますか』
「はい。調整してうかがうようにします」
よしおか病院での入院は1~2週間ということだったから、入所まであまり時間はないんだな。
老健が決まったことはいぬかいのサダカタさんにも伝えた。「さくら」でのリハビリの後、仮に自宅に戻れない場合はいぬかいのグループホームはどうか、という提案をいただけた。
最終的には「さくら」との調整にもなるが、順番待ちということもあるので、仮の申し込みを代行しておいてくれるというので、お言葉に甘えることに。
この時点でわたしが考えていたのは、先に見つかったSN証券の口座にあるマサさんの「資産」のことだ。老健に入るということは、これまでのデイサービスとは比較にならない費用がかかることになる。もちろんマサさんの年金で賄えるだろうが、あっちゃんの生活もある。
おそらくは老後のための蓄えのつもりで投資してたものだろうから、それをマサさんのために使うのは至極自然な流れだ。
現金化、進めよう。
といっても手続きがまるでわからない。マサさんと同じようなケースは当然多くあるだろうから、何らか方法はあるだろう。
まずは証券会社のホームページをチェックだ。お、問い合わせ用のチャットツールがある。これでやってみよう。
「口座番号xxxx、名義人xxxxの口座の内容を現金化したいと考えています」
『チャットに個人情報は記入しないでください』
チャットの画面に書いたものはもう消せないし。
「本人が入院しているため、家族が代理で手続きをしたいのですが」
『ご本人以外の手続きはできません』
正論でバッサリと斬られてしまった。チャットボットになんか質問するもんじゃないな。
ならば口座がある支店に電話をかけてみよう。担当者、という方が電話口に出てくれた。
「というわけで、認知症もあるので、家族が手続きできないものでしょうか」
『基本的にはご本人、あるいは法定代理人以外はできません』
「それですと自分の老後のために貯めたものが、自分のために使えないということになりますよね。同じようなケースは多いとは思いますが、なんとか方法はないものでしょうか」
半ばクレーマーのようなことを言っている自覚もあるが、泣き落としだろうとなんだろうと、何らかの策を見出したい。
いろいろ言ってみるもので、検討してくれる、との回答を得た。
翌日、上司と名乗るタカハシさんという方から連絡が入った。
『ご本人の承諾があれば手続きは進められますので、明日入院先の病院まで出向いて意思確認をしてきたいと思います』
「認知症もあるので、うまくコミュニケーション取れないかもしれません」
『それでも伺ってきます』
「よろしくお願いします」
ちょうどその翌日、さくら老健からの書類が届き、入所日の調整の依頼のために、よしおか病院のヤマモト看護師に電話連絡をすることになっていた。
「今日午後の面会時間に、SN証券のタカハシさんという方が父の面会にきます。こういう事情なので、どうぞよしなにご対応いただければありがたいです」
自分で言いながら「よしな」って何だよと思う。でも事情がわかっている方がいてくれれば可能性は高くなる。
そして現金が用意できれば、マサさんとあっちゃんの将来の選択肢も増えるはずだ。わたしは祈るような思いで結果が出るのを待っていた。
0 件のコメント:
コメントを投稿