2024年3月3日日曜日

翳りゆくひと。[015]


[015]

ながいきセンターのセイコさんがマサさんのマンションにやってきた。

「こんにちはー」

こうしてセイコさんが、マサさんあっちゃんの「顔見知りの人」になっていく過程がありがたい。わたしならイライラしてしまいそうなところも、穏やかに対応してくれるのも心強い。

マサさんの保険証が無事に見つかったことで、「次に病院に行くときは必ず持参してくださいね」と説明している。
保険証は、わたしが書類入れとして用意した白いファイルフォルダに入れて、今度は電話台の後ろに置いた。そして表から『重要書類、捨てるな』と大書きしたメモが見えるようにしておいた。さすがに捨てられることはないだろうと期待をして。
そしてそこにマサさんのマイナンバーカードもしまっておくことにした。

そしてわたしは、届いていたマサさんの介護認定の通知書をセイコさんに見せた。

「要支援1なんですか?」

判定結果にかなり驚いていたようだ。

「少なくとも要介護1は出ると思ってました」
「最近判定が厳しいとは聞いていたんですが」
「状況を見ながら、再申請してみたいと思います」

要介護ではなく要支援だったことで、受けられるサービスに制限があるようだが、引き続きセイコさんがケアプランの策定などを行ってくれるそうだ。
この日聞いた説明によると、要支援だとそのまま半ば公的な機関である包括支援センターの方がケアマネージャーとして担当してくれるが、逆に要介護の段階になると、民間の施設が担当になり、そこの方がケアマネージャーを担うことになる。つまりこの段階ではまだセイコさんが直接担当であるということで、これは正直、大安心という言葉以外にない。
細かいところはまたメールでやりとりを、ということにさせていただいた。

セイコさんの訪問の後、わたしは再び携帯電話ショップに出向いた。支払いを請求書払いからFA口座の口座引き落としに変更するためだ。

「さっきも来たんですけど、この契約の支払いを口座振替にしたくて」

夕方になっていたためか、来客予約が埋まっていて窓口対応には時間がかかるという。この日は平日で日帰り必須のわたしは「申込の書類があると聞いてるんですが」と伝えると、店員さんが申込欄のあるハガキを出してきてくれた。
記入して投函すればいいということだった。

マサさんちに戻って、ハガキに必要事項を記入する。

「ねえ、銀行印ってある?」
「さあ、これかしらね?」

そうだよな、普通に生活してても銀行印って使わないもんな。あっちゃんが自覚ないのはしかたがない。でも、おそらくコレだろうという印を押しておいた。違ったらしょうがない。

そうこうしている間に帰りの便の時間が迫ってきていた。

「いろいろバタバタしててごめん、また来るから」

そう言い残してマサさんちを出た。携帯会社へのハガキをポストに投函して空港に向かった。

慌ただしかったが、カネの流れをある程度変更そして整理できたこと、要支援だったとはいえマサさんの「介護」に向けて半歩前進できたような気がしていること。もちろんもっとできたことややり残したこともあるような気がするけど、空港のレストランで軽く飲みながらそんなことを思っていた。窓の外はすっかり暗くなって照明が灯る滑走路。
カウンターに広げたPCから打ったセイコさんへのメールにも、そうした思いを書き記しておいた。

「さあ搭乗するか」とPCを閉じる前に、今日のためのチェックリストを再確認した。

あ、身障者手帳とペースメーカー手帳は見つかってないや。

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