2024年3月13日水曜日

翳りゆくひと。[018]


[018]

5月になった。

マサさんの「いぬかい」でのデイサービスは順調なようだった。当初は週に1回だったのを、2週に3回ぐらいに回数を増やしているようだ。

一方あっちゃんは、「元気なんだからそんなとこ行くことないのに」と相変わらず懐疑的なようなのだが、空いた時間にちょっとお出かけしたり、昼寝したり、マサさんを気にかける必要のない穏やかな時間を持ってくださいと説得されているようだ。そのとおり、とわたしも思う。

なんとなく気になっていたのはその利用料金の支払いだが、口座引落ではなく当面現金で支払うことにさせもらった。最大の理由は、口座引落に登録できるのがN銀行だけで、マサさん名義のN銀行の口座は残高がギリギリだったから。
かと言ってあっちゃんが現金を用意しなければならないってのは忘れちゃいそうだなぁという心配もある。でも送り迎えの際に顔を合わせるだろうから、まあ繰り返し催促してもらえるかな、と甘えることにしてしまった。

いずれにしても一度いぬかいには挨拶に行かないとな。電話では話をしたけれど、こういうのってやっぱり顔を合わせるのって大切な気がするし。
わたしはいぬかいに連絡を入れた上で、19日金曜日の休暇を取得した。

「今度の金曜日、ちょっと様子見に行くよ」
『別にちゃんとやってるからだいじょうぶよ』
「サッカーの試合があるからさ、そのついでに」
『あらそうなの?』

サッカーの試合があるのは事実。でもそういう理由付けをしておかないと、あっちゃんがなんとなく嫌がるのもわかってたから。
もちろん試合観戦もわたしの楽しみではあるのだけれど。

今年に入ってもう3回目の朝一番の便。すっかり夜は明けている。
まだ真夜中のようだったあの1月の朝とは比べ物にならない気分なのは、この明るい空のせいだけではないだろう。わたしには窓の外を楽しむ余裕があった。

「おはよう」
「あらどうしたの」
「サッカーの試合行くついでにちょっと寄ったんだよ」

電話で言ったよね、という気持ちもありつつ、それは言葉にしないでおく。

「大きくなったねぇ」

マサさんは相変わらずだ。朝食もモリモリ食べてる。
でも改めてふたりを見ると、あたりまえなのだが、年老いたな、という気がする。特にそんな印象は顔、特に目の周囲に感じてしまう。窪む、とでもいうのか。

例によってリビングテーブルの上のチェックをしていると、ガス会社からの新しい請求書が出てきた。もともとガス代は引き落としだし、口座変更の手続きもした。じゃあこれは何だろう。しかも支払い期限は過ぎている。
あっちゃんに聞くのが筋かもしれないが、それは過度の期待かもしれない。わたしは請求書に書かれている問い合わせ先に電話した。

はっきりとした経緯はわからないが、2ヶ月分は請求書払いの扱いになっているということだった。そして「これで最後です」とも。
手元にある請求は1ヶ月分なので、その2ヶ月分のコンビニ振込用のコードをSMSでスマホに送ってもらった。

その後リビングテーブルから見つかったのは、ガス料金を「電力会社にまとめました」という書類だった。確かに昨今そういう「おまとめ」の話は多い。その結果の「精算」だったのだろう。
だけどなんでこのタイミングでそういうことになってるのか。雑に想像すると、営業マンがやってきて「お得ですから」と言われたのか。
わたしは、またもやなんともせつない気持ちになっていた。

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