2024年8月18日日曜日

翳りゆくひと。[051]


[051]

自宅に戻ったわたしは、あれやこれやと「事務処理」に追われた。

まずはさくら老健で頼まれたマサさんの車椅子用クッションの購入だ。そんなものが必要だということすら知らなかったわけだけど、今現在は施設のものを借りている状態で「こういうのを買っていただけますか」と現場で言われていたのだった。
大手通販サイトにはちゃんと専門のショップもあって、そこで購入したものを直納とした。

次に滞納・督促で慌てた「住民税」の口座振替の手続き。申し込みそのものはネット上から非常に簡単だった。口座はマサさんの年金が振り込まれるF銀行のFA口座に設定した。
とはいえ、この件は次の課税時にきちんと引き落とされたことが確認するまで安心はできない。

続いて入院特約が付いていた生命保険の入院保険金の請求。こちらもネット上から簡単に申し込めた。本来は本人がやらなければならないのだが、そこはご容赦いただくとして。
こちらは中2日で保険金が支払われた。昨今は支払いが早いとは聞いていたが、少々驚きである。

あとは業界紙の購読停止や趣味の会などの退会申請を。ネットで簡単に済ませられることがほとんどだが、今どきまだ「紙で郵送」などという手間のかかることをしている組織もある。しかたがないのだが。

マサさんが会員権を維持していると思われるゴルフ場とは、電話で詳細を話すことができた。案の定会員資格は継続しており、この2月に新年度に更新されたという。タイミングが悪い。
退会、すなわち会員権の売却にはマサさんが持っているとされる「紙の会員証・会員権」とマサさんの印鑑証明が必要とのこと。次の機会にまたマサさんの部屋を家探ししなければ、と思う。仮に見つからない場合は次の更新時に再発行という形になるそうなので、時間的な猶予はあるのだが、はたして。
そして未納だった2年分の年会費は、当然だが支払う必要がある、と。

そしていよいよ、わたしは最大の案件に着手した。
ながいきセンターで紹介してもらった、介護施設の仲介業者へのコンタクトである。

ながいきセンターでもそしてさくら老健でも、評判がいいと言われた「シルバーサポート社」。パンフレットによれば地元での活動が主で、仲介だけでなく引っ越し・処分、不動産、葬儀、相続といった業務にも対応が可能とのことで、わたしのニーズにも合致している。
パンフレットに名刺が貼ってあった、イワキ氏のアドレス宛にメールを書いた。

『ながいきセンターで紹介をいただき、メールをさせていただいています』
『両親の暮らせる施設を探しています』

『父は昭和8年生まれ、90歳、要介護3。もともと認知症で要介護1の判定を受けていたところ、昨夏、脳梗塞を発症し倒れ、現在は老健に入所中。左半身に麻痺があり、基本的には車椅子で、立ち上がりも容易ではありません』
『母は昭和14年生まれ、84歳、要支援2。少し物忘れが出てきていたところに、昨夏からのひとり暮らしによってかなり進行した印象。特に短期記憶と日付の感覚が難しいようです。基本的には家事等はひとりでこなせるものの、徐々にQOLが低下しているように見受けられます。生活は自分でできる、他人にはあまり踏み入れてほしくない、というタイプ』

『父が手厚く介護を受けられる施設というのは確かにいいとは思うのですが、やはり母のこともあり、ふたりで暮らせるのがベターではないかと思っております。ながいきセンターの方も同意見です。その上でどういう「家」がふさわしいのか、当方には判断材料もなく、ご相談させていただく次第です』
『費用面のこともあろうかと思います。あまり大きな資産はありませんが現在の住居であるマンションの売却は当然視野にいれて考えております。そのあたりもご相談できれば幸いです』

わたしは文面を読み返し、そして送信ボタンを押した。さあ、始まったぞ。

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