[049]
「ただいま」
出来上がったばかりのスペアキーを使って、あっちゃんのマンションに戻った。
「どこ行ってたの?」
「区役所行った後に、ながいきセンターのセイコさんに会ってきたんだよ」
「セイコさん?そうだったの?」
「うん、それでね、セイコさんとも相談したんだけど・・・」
わたしは、このマンションを出て新しい家に移るのがいいだろうというセイコさんとともに出した結論を、ひとつひとつ紙に書きながらあっちゃんに説明をしていった。
「やっぱりマサさんとひとつ屋根の下で暮らしたいでしょ」
「そうね、それはそうね」
「終の棲家にマサさんと一緒に暮らすことがひとつ目的だとして、でもマサさんがこの家に帰ってくるのは不可能なの」
「そうなのかしら」
「そうなんだよ。マサさんには要介護3っていう判定が出てて、介護が必要だよという中でも3番目に重い状態なのね。もう自力では歩けないし、とにかく介護のプロの助けがないと生活できないわけ。だからこのマンションでは絶対にダメで、介護の付いている施設や老人ホームでしか暮らせないの」
「ぜんぜん元気だと思うけど」
「で、あっちゃんにも要支援2っていう判定が出てて、それは誰かの助けを受けてください、そうしないと生活大変ですよ、ということなの。自分では家事もできていると思っていると思うけど、周囲から見たら誰かの助けを受けてほしい、そういう体調や状態になってきてるってことなのね。この間、財布落としたかもってこともあったじゃない。ああいうことがまた起きないともかぎらない」
「おまわりさんに届けに行ったんだけどね」
「あのときは見つかってよかったけど、だから、この今のふたりの状況を考えたら、そしてふたりが一緒に暮らすなら、どうしても『誰かが近くにいてくれる新しい家』を探さなくちゃならないんだ」
「うん・・・はい」
「その新しい家、どういうところがいいか、僕が探すから、任せてもらえるかな」
「そうなんだね」
「お金のこともちゃんとやるし、最終的にはこのマンションも売ることになるとは思うけど」
「そうね、お金ないものね」
あっちゃんが少し寂しそうな表情をしたけれど、わたしはそれを納得の表情だと思うことにした。
説明に使ったメモは、セイコさんと情報共有をしておくために写真に残しておきつつ、リビングテーブルの上に今回新たに置いた「新しく届いた郵便物はここに」と書いた書類トレイの一番上に入れた。
「最近仕事はしてるの?」
突然あっちゃんに聞かれた。
「え?何?もちろん毎日ちゃんと仕事してるよ」
「そうなのね。ときどき来てくれるから、もう仕事してないのかと」
「今日は休暇だよ」
やはりわたしが来ていることが少しばかり気にかかっていたのか。加えてわたしの年齢のことも考えたかな。
急に何だろうと思うと同時に、やはりこれも弱音のひとつなのではないか、わたしはそんなことを思っていた。
だが、もう少し話をしたほうがいいようにも思うけれど、そろそろ今日は行かないとならない。
「これからマサさんのとこに行ってくるから」
「そうなの?一緒に行かなくていい?」
「大丈夫だよ。もう夕方だし、雨が降るかもしれないって予報も出てるし」
「そうね、そうするわ」
「面会したらそのまま空港行って帰るから」
わたしは確認が間に合わなかった書類やら郵便物やらで膨れ上がったデイパックを背負った。
「また来るからさ。ごはんしっかり食べてね」
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