2024年8月13日火曜日

翳りゆくひと。[048]


[048]

区役所を出たところにあるコンビニに入って野菜ジュースと雑誌の代金の支払いを済ませ、都合よく並びにあったY銀行であっちゃん名義の口座の通帳記入を行った。
あっちゃんのもらっている年金は、これ単独で生活するにはとてもじゃないけど十分と言える額ではないということがわかった。だからどうということでもないけれど、今後のためにこの数字は一応頭に入れておこう。

続いてF銀行に立ち寄り、N銀行で下ろして諸々の支払い後に余った現金をFB口座に入金した。この口座からはまだ医療保険とかどが引き落とされてるから、ときどき補充をしておく必要があるが、今回の入金はおおよそ半年分にしかならないのかな。気をつけておかないと。また督促とか勘弁だからな。

あっちゃんち最寄りの駅まで戻って時計を見る。何をしたつもりでもないのに、もう昼過ぎなのか。

検索して場所を確認していた小さな店の扉を押す。

「すいません、この鍵のスペア、作れますか」
「はい、大丈夫ですよ」

あっちゃんちのマンションの鍵のスペア作りである。
すでに1本行方不明のようだし、それ以上にもし何かのときに鍵がかかっていたら――以前からの危惧を解消するために、この数千円の投資は惜しくない。以前から気になっていたのに、むしろなぜ今までそこに気が回らなかったのかと自分に問いたいぐらいだ。

スペアキーの完成を待つ間、ファストフードで簡単な昼食を取り、それからアポイントを取っていたながいきセンターに向かった。

「大変ごぶさたしております。いろいろとお心遣いいただきありがとうございます」

メールや電話ではやり取りを続けさせていただいていたが、セイコさんと直接会うのは1年ぶりになる。

わたしはセイコさんから指摘されていたあっちゃんの状況と、この日の午前中に見てきたものをすり合わせるように、話をした。

「ご連絡いただいてたように、やはりゴミのことと、それから料理もあまりしているようには見えなくて。そのせいか体調もかなり不安ですね」
「相変わらず郵便物の確認を含め、細かいところに気が配れなくなっているようにも思えます」
「メンタルだけでなくフィジカルも衰えたという印象です。とにかく全体にQOLが下がっている、という言い方ができるでしょうか」

ひととおりわたしが話をした内容をうけ、このままひとり暮らしを続けさせるのは難しい、セイコさんとわたしはその点で一致した。

「父の老健での生活も半年になります。今後はできればふたりが一緒に暮らせる場所のほうがいいと思っています。母にとっても父と生活できるというのは望みではないかと」
「そうですね。立場上この施設はいかがでしょうと我々が直接紹介することはできないのですが、仲介していただける業者の方をご案内することはできます」
「それは助かります。ぜひお願いします」

土地勘も含めて、誰かに頼らないと自力で施設を探すのは無理だ。
セイコさんは3社のパンフレットを見せてくれた。

「こういう業者の方に探していただくのがいいかと思います」
「あの、言いにくいかもしれませんが、この3社の中でどこがいい、みたいなことはありますか?」
「ここは引っ越しのサポートもしてくれるみたいですし、最近評判は聞きますね」
「ありがとうございます。できるだけ早く次のことが決められるよう、進めていきたいと思います。ところでお土産を持ってきたんですが・・・」
「すいません、立場上受け取れないんです。お気持ちだけ」
「そうですよね、そうだと思ってました。今日はありがとうございました」

3社のパンフレットを持ってわたしはながいきセンターを辞去した。
どこに仲介をお願いするか、どういう施設を選ぶか、ここから先はまたビジネスモードだな。きちんとやれば話は進んでいくはずだ。

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