[044]
わたしは自宅でパソコンを開き、翌月曜日の仕事の準備、そして飛行機の空席状況を確認したりしていた。気持ちばかり焦る。
再び自宅の電話が鳴った。
『もしもし、わたし、さっき財布がなくなったって電話したかしら?』
「うん、スーパーに行ったときに落としたって電話もらったよ。大丈夫?」
『洋服の上に置いてあったのよ』
全身から力が抜けた。
『わざわざ交番まで届けに行ったりしたのに』
いや、それはわたしが行くように指示したんだよ。
いずれにしても、大事にならずに良かった。飛行機の予約もまだだったし。
『最近こういうことが多くて』
あっちゃんの口からこういう弱音が出るのは珍しい。この流れの中で、いろいろな生活補助のサービスを受けたりしてくれればいいのだけれど。
「とにかく見つかってよかったね。交番にも見つかったって言いに行ってね」
『そうね』
「そうだ。この間も言ったけど、マサさんのとこ、今、面会ができなくなってるから」
『あらそうなの。昨日もおとといも行ったんだけど』
そんなわけはない。
「とにかく面会できるようになったらまた知らせるから」
『わかったわ』
さくら老健との電話連絡で、マサさんのコロナからの体調の回復そのものは確認ができていたが、施設の面会再開めどは立っていないと言われていたのだった。
いずれにしても「財布なくした騒動」は未遂に終わって助かったが、また同じようなことが現実に起こらないとも限らない。
わたしは一連の内容をながいきセンターのセイコさんにメールで報告をしておくことにした。
翌日早速メールの返信があった。セイコさんは早速あっちゃんと電話で話してくれたそうだ。「財布が見つかったことは交番にも伝えてくださいね」と繰り返してくれたとのこと。
それでもこの状況でなお、あっちゃんは「サービスは受けたくない」と言っているらしい。
メールには『お父様とふたり一緒に入れる施設を検討いただくのがいいと思います』と結ばれていた。
「一緒に施設」という言葉がついに出てきた。そうなんだろうな。わたしもそう思う。
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