[013]
マサさんちに着いたわたしは、朝食を食べてるマサさんとあっちゃんを横目に、さっそくマサさんのカバンの中とリビングテーブルの上のチェックを始めた。
今日の最大の目標は保険証の再発行。そのためには本人確認書類が必要で、そのためには身体障害者手帳を見つけるのが近道だと思ったからだ。
念のため前もって今日やるべきことの段取りをチェックリストの形でまとめておいた。それに従って動いていこう。
「大きくなったねぇ」
あ、今日はマサさん調子がいいのかな。
最初にテーブルの上から見つかったのは介護認定の通知書。これはあとでながいきセンターのセイコさんに会うときに見せればいいか。
それから携帯電話料金の請求書。封も切られていない。届いたらすぐに支払ってとお願いしてたけど、やっぱりというか残念ながらというか、払ってはくれてなかったか。これは後で払いに行こう・・・。
あ、お願いごとを書いたメモの入ったファイルケースがないじゃないか。
「こないだ来たときに書類を入れといた白いケース、知らないかな。メモが入ってて見えるようになってたはずなんだけど」
「さあどうかしら」
あっちゃんの言葉は、どこにあるか場所があるかがわからない、のではなく、そこにあったことすら記憶にない、という反応なのだろう。
セイコさんの見立てではまだ認知症ではないとのことだが、短期記憶がここまであいまいになってしまうのか。
いずれにしても、カバンの中にあった身障者手帳、テーブルの上にあったファイルがなくなっているのは確か。となると考えられるのは、きちんと整理をしたいタイプのマサさんが、片付けてしまった、そしてそのことを忘れた、と考えるのがよさそうだ。
マサさんが片付けるとすれば、自分の部屋か。捨ててなければいいのだけれど。
家の奥に本来は納戸だったはずのマサさんの部屋がある。部屋といっても物置みたいなもので、洋服はもちろん、アルバムとか本とか趣味のものやらあれやこれや放り込んである棚がある。あっちゃんに言わせれば、ちゃんと整理されて収納されているそうなのだが。
あっちゃんがマサさんに問いかける。
「白い書類ケースって知ってます?」
マサさんは自分の部屋に入っていって、しばらくしてから出てきた。
「ありました?」
「いや、えー何だっけ」
これにはもう苦笑いしか出てこない。あっちゃんに言われたから自分の部屋に行った。行ったけど別のことが気になったのか、何しに来たのか忘れてしまったのか、だから居間に戻ってきた。ただ、それだけ。
代わりにわたしがマサさんの部屋へ。この部屋にじっくり入ったのは初めてかもしれない。
洋服が雑然と積み上げられてるのがとても気になるし、整理されているとはわたしには到底思えないのだけど、マサさんにとってはどこに何があるか全部わかってるから動かさないで、ということだったのだろうか。あっちゃんもこの部屋にはほとんど足を踏み入れてないっぽいし。
とにかく探し物だ。
気になるのは、扉を開いたらそこが机になるタイプのライティングデスク。デスクとしての機能は果たせてなさそうだけど、実際そこには紙類が積み上がってたから。
上から順番に見ていくと、よく目立つピンク色の紙が出てきた。「後期高齢者医療被保険者証」の文字。有効期限は令和5年7月――これ?
わたしはさっそく写真に撮って、セイコさんにメールした。
「今回再発行しようとしてたのはこれでしょうか?」
すぐにセイコさんから折り返しの電話が来た。間違いないそうだ。
本人確認書類を探してたら、最終的な目的物を見つけてしまったということだ。役所に行くとそれだけで時間がかなり取られそうだったし、正直助かった、わたしはそう思った。なんか今日は幸先いいな、とも。
さらにその保険証の積まれていた山から、わたしが前回用意した白いファイルケースも見つかった。残念ながら表に入れておいた、やってほしいことを列挙したメモはそこにはなかったのだが。
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