2024年2月26日月曜日

翳りゆくひと。[012]


[012]

2月に入ってすぐ、ながいきセンターのセイコさんからメールが届いた。

『今日お宅にうかがう約束をしていたのですが、お母様がそのことを忘れていました』
『一緒に区役所に行って、お父様の保険証の再発行の手続きをする予定でしたが、できませんでした』

認知症のテストをした際に、あっちゃんが日付を間違えていたことを思い出した。素人考えだけども、認知機能の中でも特に時間や日付の把握が一番衰えてきているのではないだろうか。

『保険証だけでなく、身体障害者手帳、ペースメーカー手帳も紛失されています』
『巾着袋に入れて、お父様が管理されていたとのことですが』

え?身体障害者手帳はあったよ。携帯電話ショップに行くときに本人確認書類として借りて、元に戻しておいたから。でも、今はないのか――本人の中では何かの理由があって、どこかに移動させてしまったんだろうな。そうか、あのポーチにいろいろ入れてたのか。ほかには何も入ってなかったけど。

『ながいきセンターでこれらすべての再発行を支援するのは時間的に厳しいです』

こちらから見ればセイコさんは唯一の窓口になるわけだけど、セイコさんの担当はマサさんあっちゃんだけじゃない。おそらくはかなりの数の担当を抱えているはずだ。だから単純に「セイコさんに任せておきさえすれば」なんてことはあり得ない。ちょっと考えればわかることが、わたしにはわかってなかったのかもしれない。

メールをもらった後、セイコさんとは電話で話をした。
そしてわたしは仕事関係を調整して、翌週の15日に休暇を取って日帰りで再びマサさんちに向かうことにした。
15日にしたのは、ちょうど年金の受給日にもあたるので、銀行関係の確認にも都合がいいと思ったからだ。

ひと月前と同じ朝一番の便。でも季節は進んでいて、空は少し明るくなってる。至極あたりまえの季節の移ろいを、時間の経過を、こんな形で感じることになるなんて。

オレンジ色に輝く窓の外を見ながら、わたしは、今日1日だけという限られた時間の短さを思っていた。

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