2024年2月13日火曜日

奔流の海。

伊岡瞬「奔流の海」
確かにカバー表4には“青春ミステリー”と書かれているし、そのとおりだとも思うんだけど、もう少し複雑で深い読後感がある。
それの正体がどうにも言葉にならない。けど書いてみる。


ミステリーと言ってもいわゆる謎解きではない。
あえて言うなら、主人公自身が「謎そのもの」であり、そして主人公自らが謎であることに気づき、そして真実を知ろうとしていく、みたいな――うーん(悩)

今に悩む女性と、過去を背負う男性と。
ふたりの若者が「偶然」かのように出会った瞬間から、物語は始まる。

時間を前後に動かしながら、なぜそのふたりが出会うことになったのか、そこに至る蓄積が語られる。そこに至る現実味のないまるで夢のような、悲劇とも言える多くの事柄に、いちいち読者であるこちらの心が波打つ。
そのすべてがあえて言えば「謎解き」の時間になる。
『昔から、夢の中で矛盾に気づいたとたん、目が覚めることを体験で知っていた』
『懐かしさと息苦しさと、自分でも説明のつかない、とにかく窓を開け放って海に向かって大声を張り上げたいような気分で』

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物語のきっかけはただの自然災害。決して「誰が」ということではない。でもそれは多くの人々の人生を揺り動かす。

小説だから劇的に書かれるけれど、おそらく市井の人々にとっても災害は同じように人生が変わってしまうものなのだろう、とも想像する。

そして本作は「青春」小説ではあるものの、改めて人間の力の及ばないもの、畏怖とでも言える「運命」について思いを馳せる。
運命とか宿命とか、そういうものは物語の中では往々にして厳しい苦しい場面とセットで語られる。もちろん白馬の王子様なんているわけがない――。

でも、こうしてシンプルに綺麗なエンディングがあるなら、必ずしも運命は苦しいばかりじゃない、そう救われる思いを抱いた、そんな読後だった。


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