[008]
「泊っていくのか」、そう問われてもな。
そもそも住んだことのないこの家に自分の部屋があるわけでもないし、昔は泊れた和室も洋服やら何やらで散らかり放題だし。
それだけでなく、わたしの正直な気持ちには、この場から逃げ出したいような部分もあった。
「仕事しなきゃならないから、インターネットの使えるホテルを取ってあるんだ」
急遽休暇を取得したわたしのその言葉には嘘はない。実はマサさんちにはWi-Fiが飛んでいるのだが、接続してみたところ相当に不安定だった。ざっと見たところ、とにかくルータが古いのもひとつの要因だと思う。さすがにこれでは仕事にはならないなと。
夕食が終わってひと息つくタイミングで、「明日の朝、また来るよ」と言い残してわたしはマンションを後にした。
出発するまで、あっちゃんは何度も「泊っていけばいいのに」と言い続けた。わたしはそのたびに「仕事があるから」と答え続けた。そしてあっちゃんは毎回「あらそうなの」と初めて聞いたようなリアクションを見せた。
ホテルまでの道すがら、そのことを思い出して胸の奥のほうが締め付けられていた。
かろうじて歩いていける距離にあるビジネスホテルにチェックインし、PCを開く。
考えてみれば、もう金曜日の夜。よほどのことがないかぎり、仕事は来週に追いやってもいいはずだ。ざっとメールとメッセージのチェックだけをして、わたしはPCを閉じた。
疲れた。とにかく疲れた。
考えてみれば今日は4時すぎには起きてたし、ずっと気は張ってたし、頭の中はずっと回り続けてた。もちろん歩いた距離もかなりになってる。
シャワーを浴び、コンビニで買ってきた缶チューハイを開けた。だけど酒が進まない。
ならば、もう寝てしまおう。
でも、疲れたのと反比例するように、頭の中ではいろんなことを考え続けていた。オーバーヒートが続いている。なかなか寝付けない夜がやってきた。
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