ウルトラマンに育ててもらった男子は、空から突拍子もないものが降ってくることを知っている。赤い玉や青い玉はもちろん、怪獣さえも。その名はスカイドン。空からドンと落ちてきたからスカイドン。「空の贈り物」の回に登場(ハヤタがスプーンで変身しようとした回ですな)。以上前置きです。
裏表紙の内容紹介もほとんど読まずに買った有川浩「空の中」を読んだ。空の“中”という絶妙な言葉が引っ掛かったのです。プロローグ。音速を超える純国産ビジネスジェット。その試験飛行で高度2万メートルに達したその瞬間、機体が爆発――。サンダーバードでいっつも破壊工作の標的になるファイヤーフラッシュ号を連想(^^;
第1章冒頭。同じ空域を飛ぶ自衛隊機。やはり・・・。
ここまでで「この後どうなるんだろう」と期待感に満ちる。
しかもここまでのわずかなページの中にも「人」が描かれていて、読者としてはその人物の心情に寄り添ってしまっている。
原因不明の航空機事故。遺された家族、事故調査委員会――となれば社会派サスペンスかな・・・と思いきや、54ページ目で一気にひっくり返った!!
物語は予想の斜め上に展開していく。斜め上すぎて高度2万メートルだよ!(←書いてて意味不明w)
大きな展開だけじゃなく、細かい仕掛けも放り込んである。たとえば、登場人物が初出のときはたいていフリガナが振られているものなんだけど、それがない登場人物がいたりして。あ、なるほど、と後で思ったりするわけですよ。
SFファンタジーだったのか!と驚きつつ、76ページではもう泣きそうになる。まいった。
――売れてる作家にはそれなりの理由があるのだなあ・・・。
あらゆるジャンルの作品を発表している作家さんだということは十分承知してたのにね。驚いちゃったんだからしょうがない。
高知の海岸にいた“何か”――後に「フェイク」と呼ばれようになる。
そして高度2万メートルにも同じような、さらに巨大な“何か”が“存在”してて。
こちらは後に「ディック」と呼ばれるようになるんだけど、こいつの話の中で「スカイドン」という単語が作中数回出てくる。いやー懐かしい(^^;
設置される対策本部。共存か排除か。本部はディックとのコミュニケーションを試みる。
きっと科学特捜隊本部でもこうやって未知の宇宙人や怪獣とかとコミュニケーションを図ったんだろうなぁ、などと思いつつ。「コミュニケーションなんぞ取れるか!」って怒鳴るお偉いさんとかいてね。
コミュニケーションにはロジックが欠かせない。
でも人類の論理は彼らの論理とは違う。
人類ならではの欲望、判断。矛盾。それに端を発した混乱。
SFではあるのだけれど、やはりこれは人間の物語だ。
愛情と信頼と、そしてそれを伝える“言葉”の物語。
共存するとはどういうことなのか。
ウルトラマンの中でも繰り返し議論されてきた重い命題だ。
さらには人類を守るのは“ウルトラマン”なのか、それとも“人類自身”なのかと繰り返し問われ。
孤独とはいったいどういうことなのか。
逆に誰かとつながるということはどういうことなのか。
みな悩み考える。だからこそ登場人物――ディックやフェイクも含めて――が魅力的なのだ。主役だけでなく悪役さえも。
中でもいちばん染みるのが“賢(さか)しくない”、ただの田舎の漁師のじいさんの真っ直ぐな、真に正直な言葉。
ああ、そんなジジイになりたい(笑)。
クライマックスもやはりロジカルな言葉のやり取り。
が、最後にはロジックを超越した、心の言葉があって――。
巻末の解説の最後を引用させてもらおう。
『読め。面白いから。』
そんな重苦しい中にもちゃんと「ボーイ・ミーツ・ガール」があったりなんかしてね(^^;
ラストシーンなんてそこらの恋愛小説が裸足で逃げ出すほどですから。知らんけど。
――まさに「空の贈り物」ではなかったかと。ついでに完全日本製の航空機という「夢」も乗せて。
* * *
著者あとがきの、さらに後ろのページに後日譚があって。
内容は書かないけどさ、こんなん泣くに決まってるやん。ずるい!
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