それからは繰り返しだった。
言われたとおり、できるだけ頭で考えることをやめ、メモに書かれた指示をこなすことに集中しようと意識した。
完全な「指示待ち」だと苦笑いしつつ情けなくも思う。
だが自分が頼ることを決めた相手からの指示だ。指示待ちにも十分な動機付けがあるのだと納得するようにした。
与えられた課題をこなし、また新しい課題を受け取る。考えるより動く――。
何度か焼き鳥ミーティングをするうちにわかったことがある。
リナさん、実は2つ年上だった。さん付けで呼んでてよかった。
一度結婚に失敗していて、今はひとり暮らし。聞いたつもりはないんだけど、話してくれた。
「私にとってはダメ男。めちゃめちゃ弱いくせに自意識高いもんだから取り繕って。結婚したのにそんなカッコつけ、いらないじゃないですか。彼がちょっとネガなところがイヤだったわけじゃないんですよ。付き合ってたときからそんなことわかってたし。結婚したら、私にはそこを見せてくれると思ってたんですよね~。甘かった甘かった。そんなガードがあったら最後まで距離なんて縮まるわけがない」
自分のことを言われてるみたいで居心地が悪い。
「昔はやっぱり強い男がいいなと思ってましたけど、それなりに年を重ねて――そ・れ・な・り、ですよ――男に限らず女もみんな弱いってこともわかってて、だからそれを受け入れて見せられる人のほうが人間的にいいなぁって思うんですよねー」
自分の言葉に照れたのか、レモンサワーを勢いよく流し込んだ。
「まあ私も夢見る少女だったわけです」
なんだかさわやかに言い放つリナさん。決して人がうらやむような話ではないのに、ちっとも隠そうとはしない。今の自分のことを万々歳と思っているわけではないだろうが、そのことを否定はしていない。あえて言うなら、そんな自分のことも好きなのかなと思う。
俺は後悔にまみれて生きている。逃げるように生きてきた。できればやり直したい。あの夜に戻りたい。心は未来ではなく、完全に過去を見つめている。
そのことを肯定してやるぐらいなら、俺にもできそうな、そんな気がしてきた。
0 件のコメント:
コメントを投稿