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ぬまた不動産との電話の後、考えた。タカシさんとはもう何十年も会っていないし現在のことも何も知らない。あっちゃん以外に何か知ってる兄弟や親戚といっても、タカシさんと同じ市内に住む妹のりつさんぐらいしかいないか。電話かけてみるか。
が、りつさんは、何も知らないし、基本的には没交渉だということだった。言葉の端からは、関わり合いを持ちたくないという感情が滲む。
親戚内でのタカシさんの立ち位置が見えるようだった。
結局何の情報もないまま、再びぬまた不動産側と電話で話すことに。
「というわけで、こちらでは何も情報はありませんでした。わたし自身は遠方に住んでいますので、そちらでももう少し調べてみてはいただけないしょうか。大家さんが鍵とかはお持ちでは」
『実は大家さんも代替わりをしたばかりで、今の段階ではよくわかられていなくて』
一方で、ぬまた不動産側からも初動であっちゃんの携帯電話に連絡をし、本人に確認を依頼したという話も出てきた。
「申し訳ありません。認知症があるので事の重大性の理解と、それからお返事そのものを忘れているものと思います。連絡や対応はすべて私のほうで行います。もちろん滞納分の家賃はお支払いしますので、引き続きご近所の方とか、あとは警察でしょうか、よろしくお願いします」
家賃を払うと言い添えたのは、連帯保証人の当然の責務であると同時に、おそらくは不動産会社としての最大の懸案だったことだろうから、そこはクリアにした上で現地で調査を続けてほしかったから。何しろ、わたし自身がおいそれと行けるような場所ではないのだ。
そうしたやりとりを何度か繰り返す中で、ようやく情報がアップデートされた。
『家の中に入ることができまして、通われていた病院がわかりました。問い合わせたところ、5月の段階で入院されていたということがわかりました』
5月から姿が見えないということ、5月末には支払うはずの6月の家賃が支払われていないことと合致する。
『ただそれ以上のことは個人情報ということで、家族ではない私どもには教えていただけませんでした』
そうか、そうだよな。今どきはそのあたりの情報管理は厳しいんだと思う。
『こちらの地元の警察署でも相談してますのでまたご連絡します』
「わかりました。よろしくお願いします」
ここまでの話、あっちゃんに伝えるべきかどうか、わたしは悩んでいた。
だが、伝えたところであっちゃんには何もできないし、ましてやマサさんがあっちゃんをサポートするなんてこともできない。
黙っていよう。伝える必要はない。わたしはそう決めた。
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