[092]
ぬまた不動産とコンタクトをし続けておおよそ半月、ついに状況が判明した。
『地元の警察の生活安全課から病院側に問い合わせてもらって、すでに亡くなっていたということが確認できました』
まあそうではないかと思ってはいたが。
『原因とか日時とかそのあたりの細かい話はやはり親族の方のみ、ということなので、ご親族の方にその旨お伝えください』
親族と言えばタカシさんの妹でもあるりつさんしかいない。
当初から様子を見に行ってほしいという依頼はしていたが、どうしても関わり合いにはなりたくないようで対応はしてもらえなかった。その人に伝えてどうこうなるとは思えなかったが、「わたしではどうにもならないので、同じ市内ということでよろしくお願いします」と生活安全課の連絡先だけは伝えた。「もちろん、お金のことはわたしのほうですべて対応しますので」という言葉は添えて。
これで万事終了、ということにはならない。わたしは諸々の事後処理に追われた。
まずは当初からの問題だった2ヶ月分の家賃の送金。これは当然、預かっているあっちゃんの口座を利用した。連帯保証人はあっちゃんなのだから。それにしても暗証番号を確認しておいてよかった。
続いて代理人として、賃貸物件からの「退去届」を提出。これで賃貸そのものは終了となるが、当然物件内の原状復帰、すなわち室内の片付けと処分も必要だ。
同じく連帯保証人の代理人として「立ち入り同意書」なるものに記入をし、不動産屋経由で業者に依頼、見積を出してもらった。これはもう言い値で進めてもらうしかない。
その見積の際に部屋の外に原付バイク、そして室内からはその原付の税金の督促状が見つかった。
賃貸物件のことは保証人だろうが、そうした手続き関係は近しい遺族にまずは対応してもらうのが筋かな。そう思ってわたしはりつさんに改めて連絡を取った。同じ市内に住んでいるんだし。
『そちらでやってください』
関わりは一切持たない。びた一文払わない。
あっちゃんを老人ホームに入れたことにはあれこれ文句を言ってたくせに、こちらからの依頼は完全拒絶だ。
しかたない。やればいいんでしょ。ましてや故人に罪はない。
その代わり、もうわたしから連絡を差し上げることはありませんから。そう決めた。
役所の納税課の窓口に事情を話して納付書をわたしの自宅に郵送してもらった。
原付は紹介してもらった業者に処分を手配してもらった。こちらからは委任状と関連書類を作成して送付した。
『お部屋の中からお子さんの写真が出てきたのですが』
「気にせず処分してしまってください。どうやら離婚しているらしいのですが、こちらの親戚では元のご家族の方々の連絡先もわからないようなので」
7月末には形式的ではあるが、ぬまた不動産が部屋の中と出入口に「遺品整理通知書」なるものを貼り出してくれた。要するに「まもなくすべて処理しますよ」という告知だ。
そうして8月に入ってようやくすべての処分が完了した。遺品を含めた整理費用もあっちゃんの口座から送金した。
原状復帰が7月中に完了しなかったので、本来は8月分の賃料も請求されるべきかとは思ったが、わたしのほうからは特に言うこともなかろうと思い、そのままにした。
言葉は良くないかもしれないが、ようやくひと仕事を終えた。
ところでこの一連の騒動のことを忘れかけた9月下旬、遺品の対応について役所からあっちゃん宛に照会が届いた。親族に遺骨や遺品、特にお金の引き取りを依頼するという内容だ。これに対しては「受取拒否」の欄にチェックを入れ、「老人ホームに入居しているため対応不可」という回答をした。ほかに回答のしようがないと思う。
むしろ100万ぐらいの金で遺骨押し付けられてはたまらない。
これで本当にすべて終了だ。
ずいぶん時間がかかった。でも、逆にひとりの人が亡くなったというのに、これだけのことだったのか、という気がしないでもない。
0 件のコメント:
コメントを投稿