2025年5月16日金曜日

翳りゆくひと。[093]


[093]

あっちゃんの不動産賃貸の保証人問題でバタバタとしていたころ、ほぼ並行するようにマサさんの不動産であるマンションの売却の話も進んでいた。進めなければならなかった、というほうがわたしの印象としては近い。

売買契約に押印したオンラインミーティングからおよそ3週間が経ち、残金の支払いは8月末に確定した。
ただその前に最終確認のためのマサさんと司法書士との面談が必要で、それが7月第1週にセットされることになった。
ナカジマ不動産のイノマタさんも同席するが、マサさんの状況もあるので、当然グッドライフの方にも立ち会ってもらう必要がある。

「大変お手数なのですが今後の資金のためでもありますので、なんとかよろしくご対応をお願いします」

グッドライフのミズマキさんに、正直にそう伝えた。きっとうまくやってくれるはずだ。

そうして面談日が7月5日に決定、あとは粛々と手続きが進めばと思っていたのだが、その面談日の前々日、グッドライフのマサさんとあっちゃんの住むフロアで新型コロナ感染症の入居者が出たとの連絡が入る。
ふたりとも検査の結果陰性だったのは何よりだったが、フロアそのものが隔離状態になってしまったため、司法書士との面談は中止になってしまった。

どうにも物事がスムーズに進まない。

ただこの頃のわたしは、あっちゃんの連帯保証人問題のほうに意識が向いていたし、売買契約も取り交わしていたから、「はいはい、そういうこともありますよね」ぐらいの気持ちでいたことも確かだった。

むしろ気になったのはコロナのほうで、妻があっちゃんと電話で話をしてくれた。

「お母さん、コロナが出たこともフロアが隔離されてることもあんまり認識してなかったみたいよ」
「そうか、気にしすぎるのもよくないかもしれないからね」
「あと、『病院は快適よ』って言ってた」
「そこは病院じゃないよって今度からはっきり言ったほうがいいかもね」

フロアの隔離期間が終わり、7月16日に再設定された司法書士との面談は、無事終了した。
マサさんの売却の意思確認もできたとの連絡を受けた。どう確認したのかはわからないが。

わたしのほうからは実印の必要な書類、権利書を司法書士に送って、この段階での売却手続きはすべて完了した。8月末の着金後に正式に所有権が移った登記がなされることになるそうだ。

売却が確定したのと同時に、マンション室内の片付け、すなわち家財の処分もスタートした。
業者から提示された見積額を見るとATMで手続きできる程度の金額で、しかも値引きがなされている。これは「売れるものがあればこちらで売りますので」という意味合いらしい。確かにあまり細かいところまでは見ていないから、そうできるものがあれば売却してほしいし、むしろ業者の方にはそこで利益を出してもらってかまわないとさえ思う。

『マンションの片付け作業、すべて完了しましたのでご報告します』

3日間ほどの作業を経て、マンションの内部が完全に空になった。
SS社のイワキさんには予定どおり電気、ガス、水道の停止のお願いをした。
また、片付けと処分費用も早速銀行から送金対応した。

そして念のため1本だけわたしが持っていたマンションの鍵も、イワキさん宛に郵送した。

逆にイワキさんからは同時に室内の写真を送ってもらったのだが、あまりにも広々として驚く。

何十年も生活してると溜まってしまうもの、ずいぶんあったんだな。

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