2024年5月30日木曜日

翳りゆくひと。[034]


[034]

マサさんが老健に入所したことは、マサさんの末弟のヤスおじさん、あっちゃんの末妹のりつおばさんには電話で伝えておいた。特に隣県に住んでいるりつさんには、あっちゃんがひとり暮らしになるからできるだけ気をかけてもらえたらうれしい、とも。

8月下旬になってそのヤスおじさんから電話があり、すでに亡くなっているマサさんの下の弟の法事の際に老健に面会に行きたいという話だった。
それ自体は大変ありがたい話だと思ったのだが、その後がよくなかった。

『姉さんに電話したら、なんだか要領得なくて困ったよ』
「母が認知症の傾向にあることはお伝えしてるはずです。その言い方はないんじゃないですか」

さらには法事の後も、『墓をどうするか、ここはやはり長男が』などと電話をしてきた。そういう話が出ないように、ずいぶん前からマサさんを含めた三兄弟できちんと話し合い、諸々分配を終えたはずだ。少なくともわたしはそういうふうにマサさんから聞いていた。
ここにきて「長男」なんて単語を出すのは、マサさんが対応できないのをいいことに、何やら責任逃れをしたいのか、あるいはマサさんやわたしの不在にかこつけた欠席裁判か、そう思わざるをえない。

「ヤスおじさんからではなく、しかるべき方からご連絡をいただければ、しかるべき対応をいたします」

わたしは電話を切った。正直、この時点では縁を切っても構わないとすら思うほどに憤っていた。
親戚という名の煩わしい関係は、今後のマサさんあっちゃんの生活からは排除したいとさえ。

マサさんとあっちゃんには穏やかに日々を送ってほしい。ただそれだけなのだ。

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