[035]
8月も半ば過ぎ、久しぶりに「いぬかい」のサダカタさんから電話がある。
『実は6月と7月の利用料をいただいていなくて』
いぬかいの支払いはあっちゃんに現金対応してもらってたんだけど、6月請求分は忘れられてたらしく、7月分はマサさんが倒れたことで中途半端になってたらしい。
「請求書をこちらにお送りいただけますか。こちらから支払いますので」
N銀行のマサさん名義の通帳が手元にあるから、支払いそのものは問題ない。
わたしの家から電車で20分ほど行ったところにN銀行の支店がある。そこのATMからいぬかいへの送金を操作した。
『この口座への送金はできません』
見慣れないメッセージが画面に表示された。頭からもう一度やり直しても変わらない。
自分名義ではない通帳で操作している後ろめたさが急に頭をもたげてくる。
ならばといったん現金を引き出し、現金を送金するという形でやってみたが『この口座への送金はできません』の一点張り。同じN銀行の口座だというのに。
あきらめてN銀行を出て、周辺を見渡すと、某都市銀行の看板が見えた。そこのATMから、現金を送金した。何の問題もなかった。
いったい何だったんだ。ただ当分「いぬかい」へ送金することはないから、あまり深く考えるのはやめよう。
また「さくら老健」のケアスタッフの方からもたびたび電話がかかってきていた。
『おむつを嫌がるようなので、外れないようにおむつガードを手配してもよろしいでしょうか』
どういうものかは全然わからないけど、「いいですよ」。
『シューズが足に合わないようなので買ってもいいでしょうか。あと部屋用のスリッパを奥様にお願いしているのですが』
必要なものは買っていいって言ったけどね。「買ってください」。
あと、あっちゃんに頼んでもそれは忘れちゃうよ。
『病院から持ってこられたおむつ、使えないので回収をお願いしたいのですが』
「それは捨ててくれるって話だから置いてきたんですけど」
取りに行けるわけもない。不要なものを引き取りに飛行機乗ってくの?
などととまあ細かい。ただ、逆に言えばすべてのことに対して家族の承認を取ってから進めてくれるということでもある。仕事中にかかってくる電話応対が面倒なのは正直なところだが、ありがたい話だと納得している。
そしてあっちゃんからも電話が。
『空いてるマンションの1階に引っ越そうかと思うんだけど』
またその話か。もう何回も聞いたし、何回も説明した。わたしはちょっとした苛立ちを抑えながら、1階にも階段あるし、マサさんの世話できないし、1階だろうと4階だろうと無理なもんは無理だよ、と繰り返した。
部屋を交換なんてできないし、部屋を売買するなんて簡単じゃないよ、買う金もないでしょ、という現実的な話は避けている。
でも「マサさんの今後の施設についてはいぬかいで相談しているよ」と告げるとあっちゃんは少し安心したようだった。いぬかいには一定の信頼があるのだろうか。
そのいぬかいのサダカタさんへ、利用料金を送金をした旨のメールに、わたしは書き添えた。
『デイサービスなど、どんな形でも母とのリレーションを継続してもらえるとありがたいです』と。
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