2015年4月22日水曜日

プロジェクト・サーティ (2)懐古

腕時計に視線を送ると短針は1と2の間を指している。路地裏の安い飲み屋のカウンターでひとり、焼酎の緑茶割りなんぞを飲みながら今夜のこの数時間のことを考えている――。

天気予報では季節はずれの寒波って言ってたっけ。妙に空気の冷たい夜だった。週末の華やかな表通りから、角を二度曲がる。
ここに来るのは十数年ぶりか。周囲の店も街並みも、ずいぶんと様変わりしたというのに、何も考えることなくこのビルにたどり着いたことにむしろ驚いた。

「古いことはよく覚えてるよ。まったく」

ガコンと危なっかしい音を立てるエレベーターに乗り込み4階へ。「SB」と刻まれた木の扉を押す。
ああ、何も変わってない。ノスタルジックな気分が身体を満たす。まさか矢野はそこまで計算していたわけではないだろうが。

それにしても、呼び出されて気が重いというのに、5分前にはちゃんと着いてしまう自分が可笑しい。性分なんだろうな。
ざっと店の中を見渡しても矢野の姿はない。とりあえず入口から見やすい位置のテーブル席に座った。

「バドワイザーを」

そう注文して、ちょっと笑った。
ふだんは「生中」か「ホッピー」だというのに、この店に来たらそういう感じになってしまう自分がいる。これがノスタルジックでなくてなんだというんだ。
バーボンなんてものの味を覚えたのもここ。「ハーパーをロックで」なんてカッコつけてたっけな。女の子の前では特にそうだ。

そういえば「SB」の正式名称は「Seven Birds」。由来については聞いたことがあるような気がするけれど、まったく思い出せない。

「古いことでも覚えてないこともあるんだな」

時計に目をやると、10時10分。ふいに扉の開く音が響く。

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