休暇明けの金曜日、前日休んだにしては特に慌しいこともなく静かに時間が経過していった。気づけばもう終業時刻だ。壁にかかった時計から静かに電子音が流れてくる。
デスクの足元に置いたバッグの中には甘木から渡された封筒が放り込まれたままだ。そのこと自体が俺にとっては恐れの対象である。
けれどもさすがに丸2日もそのままにしておくわけにはいかないか。俺は封筒からゆっくり書類を取り出し、ぼんやりと読みながら考えていた。
この日が来ることはわかっていた。気づかないふりをしていたのは防衛本能みたいなものだったんだろう。持てない重さじゃないとわかってはいるけれど、沈み込むにも十分な重さだ、と。
人に頼まれるとうれしいなんて誰が言った。そんなのはただの建前だ。がんばるほどに誰かに疎まれることだってある。そうに決まっている――。
今夜はどこかで一度頭の中を整理しないとな。パソコンの電源を落として帰ろうとしたそのとき、またあのメールが届いた。
[矢野です]
[P-30の件、細かい話は書類に書いてあるとおりでよろしく。]
矢野のタイミングの良さにほれぼれする。苦笑いしながらメニューからシャットダウンを選んだ。
「課長、今日はお帰りですか。お疲れ様でしたー」
振り返ると帰り支度を済ませたリナさんだ。
「今日は急ぎの仕事もないみたいなんで」
「そうですか。・・・課長、何かありました?」
お見通しって感じだな。いや、別になにも・・と言いかけて、ふとリナさんの顔を見た。この人なら、急にそんな気がした。
「リナさん、ちょっとお願いしたいことというか、話というか・・」
「大丈夫ですよー。何ですか」
「いや、あの、個人的なことなんで、今日ちょっと食事でも」
「高くつきますよ~」
屈託なく笑いながら、リナさんは俺に向かって親指を立てた。
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