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面談の日程が決まった直後、わたしはあっちゃんとホームとの面談に同席してくることになったセイコさんにメールを入れた。
「面談への同席、ありがとうございます」
「入所の件は納得はしているはずなのですが、突然思い出したように、もう少しひとりでやってみたいなどと言い出したりするのが少々心配です」
これに対し、すぐに返信があった。
『「ここを離れたくない」と泣いておられた方が入所後、別人のように明るい表情で暮らしていたり、ひとり暮らしのときは「生きていてもしょうがない」と言っておられた方が他の入居者と嬉しそうに過ごされていたりもします』
『認知症になると新しい環境に抵抗感が出るのは自然なことです。施設スタッフの方は豊富な経験から上手に対応してくださいます。どうぞご安心ください』
『お母様ももともとお友達付き合いのできる方です。きっとすぐに環境に馴染まれると思います』
セイコさんがそう言うのだから、きっとそうなんだろう。プロの言葉には本当に力づけられる。
今わたしがすべきことは、入所までこぎつけること、その一点だ。
面談日を前に細かい準備も進んでいく。特に何がということでもないのだが、わたしも何やら心中穏やかではなかった。
相談員のミズマキさんからは既往症の質問があったり、また、入居に必要なそれぞれの健康診断も滞りなく完了したとの報告を受けた。
あっちゃんの健康診断はいつものクリニックで対応してもらったそうなのだが、当日「今日は受診の日でしょ」と電話しておいてよかった。
必要なのはそういうひとつひとつの積み重ねなんだな。
5月10日、マサさんとホーム側の面談は問題なく終了した。認知症+車椅子という立派な介護状態でもあるし、面談の席にはオオヌキさんはじめスタッフの方々もいるし、何よりマサさん本人が穏やかに「はいはい」という感じなので、当初から何も心配はしていなかった。
やはり気がかりなのはメンタルの上げ下げが激しいあっちゃんのほう。
5日後か、明後日か、とついついカレンダーを見上げることが増えた。
そして前日。仕事を終えた直後のわたしのスマホが震えた。
『グッドライフのミズマキです。明日面談なのでお母様にお電話したところ、そんな話はまったく知らないとおっしゃってて』
「わかりました。わたしのほうから連絡をして、説明をいたします」
ふぅ。またイチから説明か。何て言おう。
頭を巡らせていると再び着信が。あっちゃん本人だった。
『グッドライフってとこから電話があったんだけど、わたし、どこかに行くって言ったのかしら』
「そうだよ、マサさんと一緒に暮らせるところに移るってことでこの間申し込みもしたじゃない。その施設の人が明日会いに来てくれることになってるんだよ」
『そうなの?ぜんぜん覚えてないわ』
「一緒に見学に行ったところだよ。準備はちゃんと進んでるから。明日はセイコさんも一緒に来てくれるし、グッドライフの人もいい人だから心配いらないよ」
『そうなのね』
意を決して言葉をつなぐ。
「今月中には引っ越すことになるからね。そのつもりでいてね」
もう何かを選択できるような段階ではないのだと納得してほしかった。