[068]
5月23日木曜日。仕事中のわたしのスマホにあっちゃんから着信があった。空いてた会議室に移動して通話ボタンをタップする。
『今ね、マンションの管理会社の人から電話があったんだけど、マンションを売るなんて話、私、聞いてないんだけど』
「ちゃんと話て決めたでしょ。新しく住むところの資金も必要だし」
『何も知らないわ』
「説明はしたし、理解をしてくれたと思って進めてるよ」
『覚えてない』
困った。いずれにしても管理会社にきちんと説明が必要だ。
「相手の人の連絡先は聞いた?ちゃんと折り返して・・・いや、こっちから電話するから連絡先教えて」
不服そうなあっちゃんではあるが、また電話すると言っていったん通話を終えた。
「もしもし、先ほどお電話いただいた4階のほうでお世話になってます・・・」
『ああ、どうも。わざわざすいません。ご家族の方で?』
「はい、長男です」
『不動産業者からの売買関係の書類作成の依頼があったものですから、こちらとしては住人の方のほうに確認を取ることになってまして』
「売却の方向で話をしているのは間違いありません。シルバーサポート社を通じて不動産業者の方を探していただいている、という段階です。実は、母は認知症傾向にありまして、そうした話が進んでいることを忘れてしまっていたようでして」
住人としてマンション売却の前段階で管理会社に仁義を切っておく必要があるのか、というわたしの質問に、SS社からは「それは特に必要ないです。業者間の話になりますので」という回答を得ていたので、おそらくその一環だろう。もちろんこの会話はあっちゃんもいる席で行った会話だったのだが。
『そうですか。シルバーサポート社経由ということはおっしゃってました。売却の意向が確認できましたので、クリアになりました。対応進めさせていただきます』
「長きにわたり父と母がお世話になりました。引き続きよろしくお願いいたします」
一瞬、「もうほっといてもいいか」とも思ったが、さすがに不義理すぎるか。あっちゃんのスマホを呼び出す。
「もしもし、管理会社の人にはちゃんと説明をしておいたから。さっきも言ったけど、イワキさんにお願いして、マンションを売る話を進めてもらってるんだからね。全部こっちで対応するから心配ないよ」
『全部任せるわ』
なんかついさっきと反応が違うけど、何か思い出したりしたのかな。
『引っ越し、しかたないわね』
「しかたないも何も、もう決まってるんだよ。来週の火曜日に引っ越しだよ」
日付の感覚とか怪しいからなぁ、来週とか火曜日とかきちんと把握できてくれているとは思えないけど、決定事項なんだということさえ理解してくれれば十分。
そして翌日、新居となるホームの個室の備品について最終確認をした後、わたしはもう一度あっちゃんに電話を掛けた。
「今日、イワキさんが引っ越し荷物をまとめるダンボール箱を届けてくれるから、受け取っといて。受け取るだけでいいから」
『イワキさんね』
「そう。それでね、引っ越しの準備に明日の朝、みぃさんと一緒にそっち行くから。10時半ぐらいには着くからね」
みぃさんというのはわたしの妻である。
『遠いところ悪いわね』
今日はわりと普通に会話したな。この感じが続けばいいのだけれど。わたしはそんなふうに思っていた。
さあ、あとの準備は現地に行ってから。
いよいよ老人ホーム入居3泊4日へのラストカウントダウンだ。
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