2024年12月6日金曜日

翳りゆくひと。[069]


[069]

あと1週間、あと4日、あと1日。
めんどくさい、しんどい、イライラする、そうした思いを堆積させ重ね圧縮したような日々を経て、ついに出発の朝がやってきた。

とにかく今回はあっちゃんを無事に老人ホームに入居させること。
そのための諸々の準備、そしておそらく突発的に起こるであろういろいろな事柄に対して、横に妻であるみぃさんがいるのは大きい。
作業分担はもちろんのこと、情報共有と判断の面で、ひとりだと見なかったことにしてしまいがちなこと、見過ごしてしまうことがきっと少なくなるはずだから。

「やっぱり4階まで歩いて上がるのは大変だね」

久しぶりにこのマンションに来たみぃさんの言葉に、やはり年寄りが暮らすには都合は良くないんだということを再認識する。

「お母さん、お久しぶりですー」
「いつ以来だったからしね」
「今日は引っ越しの準備のお手伝いに来ました」

姑と嫁の挨拶を横目に、わたしはざっと室内を見回す。前回から約1ヶ月しか経ってないから、郵便物が大量に溜まっているということもないが、やはりキッチン周辺のゴミは当然のように増えているし、シンクの洗い物も同様だ。
わたしは「キッチン、すごいことになってる」とみぃさんに目配せをした。みぃさんも「見た見た」という合図をしてきたが、そんなことはおくびにも出さず、あっちゃんとの会話を続けている。

「引っ越しは来週の火曜日ですから、この3日間で準備しましょうね」
「そうね」

この会話で気づいたことがある。
あっちゃんは見栄っ張りだ。だから息子の妻とはいえ、ある意味「他人」がそこにいると、ものわかりのいい人を演じているのではないかと。
言葉は悪いがそれを利用させてもらって、必要と思われることは一気に進めさせてもらおう。

「マイナンバーカード、預かるから出して」
「どこにあったかしらね」

マイナンバーカードを回収し、続いて銀行の通帳もまとめて回収した。
通帳は使用済みのものもご丁寧にすべて取ってあるが、それをひとつひとつ確認しているのは時間がもったいない。

「これ、ウチに送る用のダンボールだから、捨てたらマズそうなものはここに入れておこう」

引っ越し用のダンボールはわたしの自宅に送る荷物もあるだろうからと、イワキさんに依頼して少し大目に用意してもらっていたのだった。

銀行口座といえばマサさん名義のものはこの1年で整理済みだったが、あっちゃん名義のものはここまでまったく見てこなかった。

「使ってる銀行口座ってどれとどれかな。キャッシュカードはある?」

あっちゃん名義の口座は4つ。普段使っているというのは年金の入ってくるY銀行のもの。とりあえずひととおり受け取って、これは荷物として送るわけにもいかないので、チャック付きのケースに入れてわたしのデイパックの中にしまいこんだ。

「大事なものは新しい家に持っていくわけにはいかないから、全部預かるからね。心配しなくていいよ」

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