2026年3月27日金曜日

翳りゆくひと。[141]


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N銀行とM銀行から相続のための提出書類等の説明が届く。その分量から、そう簡単には相続させませんよという強い意志を感じる。
提出書類には「原本」という単語が並んでいる。遺産分割協議書は土地の登記のために1部を司法書士に送付済みなので、あと1部しか手元に残っていない。つまり1件ずつ処理をしていかなければならないということだ。
とりあえず記入できる書類は記入を進めておこう。

9月16日。仕事を抜け、アポイントを入れておいたF銀行の窓口まで出向く。

「こちらが記入した書類、それから遺産分割協議書と戸籍謄本です」
「確認させていただきます」

しばらく書類を見ていた担当の方がおもむろに口を開く。

「戸籍謄本、これではないんです。出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要です」
「いや、この謄本にちゃんと出生日と死亡日が記載されていますよ」
「これではだめなんです」

この「連続した戸籍謄本」というのがポイントで、出生から死亡までの本人の歴史をたどるものではなく、相続人を確定するためにどうやって生まれてきたのか(親)、婚姻などの関係者は、などすべての情報が途切れることなく記載された戸籍、つまり1通の本人の戸籍謄本ではなく、関係者すべての戸籍謄本の「束」ということのようなのだ。

「話はわかりました。書類不備だということも承知しました。ですが、そういう説明は一度たりとも受けていませんし、いただいたご案内にも書いてないですよね。銀行の方々は日常の業務として当然の言い回しなのかもしれませんが、こちらは初めてのことです。出生とか死亡とかの一般的な言葉を使っている以上説明不足だと思いますし、あまりにも不親切ではありませんか」

怒っても手続きを進めてもらえないことはわかっているが、言いたいことはしっかりと言うべきだと思った。

「おっしゃるとおりかと思います。きちんとしたご案内ができておらず申し訳ありません。昨今は広域で戸籍が取れますので、お近くの区役所などで取得していただいて簡易書留でお送りいただけないでしょうか」

切手の貼られた封筒を受け取り、わたしはF銀行を出た。
手続きが完了しなかった残念さはあるものの、当初からそう簡単に事は進まないという認識もあったので、「まあそういうこともあるか」という程度の心持ちである。

翌日、再度仕事を抜けて職場近くの区役所の戸籍係の窓口に出向く。案内係の方に「相続のための連続した戸籍が必要なのです」と告げるとスムーズに記入書類を示してくれた。

発行部数は2部と書いた。
別の場面でも必要になるであろうから予備として。

「こちらなんですが、他の自治体のぶんなので発行までに4時間ほどお待ちいただくことになります」
「そうですか。夕方また来たいと思います」
「本日中に受け取っていただかないと無効になりますのでご注意ください」

いったん仕事に戻り、夕方早退の届けを出して再び区役所に。

「はい、こちらが連続した戸籍ですね。全部で7通になります」
「こんなになるもんなんですね」
「いえいえ、これでも少ないほうですよ。離婚とかされているとどんどん枝分かれしていくので」

7通×2部。6900円という想像以上の手数料を支払い、その足で郵便局に。本局ならまだ郵便窓口が開いている時間だ。

「簡易書留でお願いします」
「ではあと70円ですね」

F銀行で預かった封筒に貼られていた切手では額面不足だった。

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