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2025年が明けた。
そしてまたあっちゃんの携帯電話が通じない。まるで正月の恒例行事のようだ。
『おかけになった電話は電源が入っていないか、 電波の届かない場所にあるため、かかりません』
電話不通はこれで3年連続である。
だがこれまでと決定的に違うのはあっちゃんの周囲には目を配ってくれる人たちがいるということ。心配は何もない。
この音声ガイダンスにも「本当に充電忘れてるんだろうね」と思う程度だ。何かのついでのときにでもスタッフさんに確認してもらえば十分だ。
そんなことを言っていたら、グッドライフのスタッフさんから電話がかかってきた。
『お父様なのですが、インフルエンザのA型にかかってしまいました。今のところ高熱ということではないのですが、お部屋のほうで隔離させていただいています』
いくら対策をしていたとしても人の出入りがゼロではない以上、完璧はありえない。
感染症はある種、不運というだけの話だ。
「わかりました。引き続きよろしくお願いいたします」
『お母様のほうもお父様と接触があったということで隔離させていただきました』
それから3日後の1月15日。再びわたしのスマートフォンが震えた。
マサさんの熱が下がりきらず、また酸素濃度も下がったためによしだ内科病院に入院することになったという。
酸素濃度という言葉は例のパンデミックの際にたびたび聞いた単語で心配ではあるものの、一方ではちゃんと提携病院の医師の存在が垣間見える安心感も感じる。
『それで入院の手続きはこちらで対応させていただいてよろしいでしょうか』
「はい、それはもちろんお願いします」
『ご家族のほうからも一度病院に連絡をしてみていただけますか』
「わかりました。後ほど電話してみます。あ、そうだ。母のほうなんですがスマートフォンの電源が入っていないようなので、ついでのときで結構ですので確認していただけると助かります」
よしだ内科では院長に電話をつないでくれた。
『ご家族様ですね』
「はい、長男です」
「お父様なんですが、肺炎を起こしていましてね、それでもしもの際の延命治療はどうされますか」
いきなり「延命治療」の話だった。マサさんの年齢で肺炎となれば当然の質問なのだろうが。
1年半前に脳梗塞で倒れたときにも病院で同じ質問を受けたが、答えは決まっている。
「いえ、希望しません」
頭では決めている言葉でも、口に出すとやはり苦い。
『抗生剤を投与したところなので、これからそれがどう効果が出てくるか、というところですね。現時点ではそれ以上は』
「わかりました。よろしくお願いいたします」
『いつでも連絡が取れるようにしておいてください』
わたしは電話を切ると、近々のプライベートの予定をすべてキャンセルした。
スマホが手放せない週末がやってくる。
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