[055]
4月24日、イワキさんに調整してもらった施設の見学スケジュールに合わせ、わたしはあっちゃんちに向かう機内にいた。
地上がまるで見えない雲海と、そして広がる青空を見ながら、『急がれたほうが良いと思います』というセイコさんの言葉が、繰り返し頭の中に浮かんでは消えている。
なんとかこの2日間で「決着」にまで到達したい。そこまでたどり着いてようやく「晴れ間が見える」はずだと信じて。
マンションに着くとあっちゃんは「今起きたのよ」とまだ朝食中だ。
時計はすでに10時を大きく回っている。生活のリズムがさらに乱れていることが想像できる。
そもそもわたしが来たこと自体にほんの少し驚いているようにも見える。
「今日、何日だったかしら」
「24日だよ」
電話台の上のカレンダーを見上げて「24日の10時ってカレンダーに書いてあるわ。起きたとき見なかったのかしら」と。
日付がわかってないんだから、仮に見てたとしても、気づいてなかったかもな。
「今日は施設の見学だから、とにかく朝ごはん食べちゃって」
チラリとキッチンを覗いてみると、まさに「惨状」。2月のときも片付いていないとは思ったけれど、ここまでではなかった。シンクは洗い物で埋め尽くされ、コンロの上もいつ使ったのかもわからないような鍋が並ぶ。電子レンジの扉はゴミ置き場と化し、ゴミ袋にも入れられない空き缶やペットボトルが床に転がっている――。
セイコさんからの『家の中は散らかっていましたし、果物なども腐らせているようでした』というメールの文面から想像していた、数倍のレベルの散らかりようだ。コバエが数匹飛んでるのも見える。
ここだけ見れば十分ゴミ屋敷だ。
「ねえ、キッチンすごく洗い物とか溜まってるけど、料理ちゃんとできてる?」
「ちゃんとやってるわよ」
「これでできるとは思えないんだけど」
「そんなことないわよ」
この会話の中で、わたしには何か触れてはいけないものに触れてしまったような感覚があった。あっちゃんにとって台所は「聖域」なのかもしれない。変に怒らせてしまっては元も子もない。
わたしは話題を変えた。
「施設の見学、今日の12時半にイワキさんが迎えに来てくれるから」
「イワキさん?」
「この間セイコさんと一緒に面談に来てくれた男の人だよ」
「セイコさんと?そう」
残念ながら予想どおりの反応だった。
それはさておき、今日は時間がない。マサさんの部屋に入って懸案になってたゴルフ会員権の捜索だ。アタリを付けていた場所を中心に探すもののやはり発見には至らない。これについてはいったん「紛失」ということで処理を進めてもらおう。
この捜索の途中で、マサさんの部屋のライティングデスクの引き出しに銀行印を見つけたので、それは確保し、わたしのバッグの中にしまっておくことにした。
近い将来、銀行での諸々の手続きが必要になるはずだから。
が、そういえばとリビングテーブルの上の文箱に入っていたはずのマサさんの実印が、文箱ごとどこかにいってしまっている。
マサさんだけじゃなくて、あっちゃんも片付けているつもりでモノをどこかに移動させてるんだろうな。
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