変わったのは職場でのポジションぐらい。武庫川がいなくなったことをきっかけに組織が再編され、俺の肩書きは変わった。リナさんは以前と同じように「課長」と呼んでくるが。おそらくはラインから少し外れたということだろうが、まあいい。
そのリナさんとの距離も元に戻った。ふたりで飲みに行くこともなければ、職場で顔を合わせない日さえある。
そして一番変わっていないのは俺自身だ。
相変わらずの「断れない人」で、逃げ出したいくせに頼まれることは喜びであると自分に言い聞かせ、そういう人を演じつつ、体裁を取り繕う。
ひとりになれば、感情は暗い方向へ吸い込まれ、思考とは裏腹に重く澱んでいく。
少しも変わっちゃいない。
でもわかったこともある。
俺の体面を覆う鎧は、せいぜいこけおどしにしか役に立たない薄い薄い鎧。きちんと見られてしまえば、本質は透けて見える程度のもの――そういう自分を少しだけ客観視できている、ということだ。
そう、あのプロジェクトの日々は今の自分を見つめなおし、きちんと認めるための時間だったんだ。俺を捉えて離さなかったあの目は、甘木のものなんかじゃなく、自分自身の目だったんだということを。
そしてその視線の中ににもはや恐怖は存在していない。あるのは、ここに自分がいて、そして心の底は澱んでいて、それでもここで生きていて――そういう自分だという認識だけだ。
今、それをそれとして受け入れていること、それがもしかしたら「変わったということ」なのかもしれないなどと思いながら。
そういえば、最近少しだけゆっくりと歩いている。心のアクセルが少し緩んだのが身体にも伝わっているかのように、仕事に向かう道ですら多くの人に追い抜かれていく。
心が急いていないということなのかもしれない。
その必要もない。俺は何かに追い立てられているわけじゃないんだ。
静かに緩やかに歩きながら今日も考え、そして思い悩む。
(了)
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