改めて、主な登場人物。
マサさん。わたしの実父。いわゆる昭和ヒトケタ。2025年死去。
あっちゃん。わたしの実母。マサさんの6歳下の妻。老人ホーム入居中。
そして、わたし。あっちゃんとは遠い地で暮らしている。
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あっちゃんは2ヶ月程度に一度、日々飲んでいる処方薬をもらいに旧来から通っている病院にでかけている。もちろん老人ホームのスタッフさんに付き添ってもらって。
マンション住まいだったころは、その薬をかなりの頻度で飲み忘れていたし、通院の予約すら忘れていたのだから、その点に関しては今現在のほうがいい状態だと思う。
そのスタッフさんから電話がある。
『お母様なんですが、薬を待っている間、お体のほうがおつらそうなので、今後は薬は郵送してもらうようにしてもよろしいでしょうか。費用がかかりますのでご確認をと思いまして』
「はい、それはもちろんかまいません。やはり待ってるのはしんどいという感じなんですね」
『そうですね。だいぶお歳でもありますし、長時間の外出になるとお疲れになるようです』
マサさんの葬儀の日、火葬を待っている時間で疲れ切ってしまって休憩室で横になってもらったことを思い出す。
老人ホームに入居してから、およそ2年。残酷なようだが、少しずつ、かつ着実にあっちゃんは老いてきているのだということを認識しておかないとならない。
そして今年も母の日がやってきた。
あっちゃんにはわたしの妻が、暇つぶし用の文庫本を何冊か送ってくれている。
夕刻、あっちゃんから妻に電話がかかってきた。のだが、数回のコールで切れてしまったので、妻のほうから折り返した。
「本、届きました?」
「そういえばこの間、写真も送ったんですけど見ました?」
わたしはその様子を、なんとなく聞いていた。
しばらく雑談して、やがて電話を切った妻が言う。
「お母さん、本が届いてお礼を言わなきゃと思って電話したんだろうけど、一度切れちゃった後はなんで電話したんだかよくわからなくなってたみたい。微妙に話がかみ合わなかった」
「そうか、短期記憶がますます怪しくなってるんだね」
「先月送った本と写真のことはまったく記憶にないみたい。見てないって言ってたよ。写真はまた送り直すことにしたからまたプリントしておいて」
この春に撮った家族写真、そちらは受け取ったという電話がなかったのだった。「電話しなきゃ」という思いが持続しないのだろうな。
あるいは確認もせずに捨てられたかもしれない。
わたしがマサさんから相続したいくばくかの現金だが、もちろん使う予定もなく、ただ置いておいてもしかたないので、運用に回すことにした。
またこれを機に、わたし自身がマサさんと同じような状態になったことを考え、情報の整理を行い、書き残すべきことは書き残しておくようにしようと思い立った。
まずは資産関係の取りまとめから。
『ここに記していることは、たとえば財産分与をどうするとか、そうしたことを記したいわゆる「遺言書」ではない。もちろん法的拘束力があるようなものでもない。
ただ、今後私自身に何かがあって、家族のみんなとコミュニケーションが取れないような事態になった場合、大量に発生するであろう事務手続きを、少しでも簡単にできるように情報を集約した文章である。』
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