2025年3月14日金曜日

翳りゆくひと。[084]


[084]

5月29日水曜日。月火と休暇をもらったので、さすがに朝からバタバタと忙しい。
昼前、そんなわたしのところに電話が入る。グッドライフのミズマキさんだ。

『お父様のほうですが、先ほど無事入居されました』
「ご連絡ありがとうございます。すべてお任せしてしまってすいませんでした」
『いえいえ。それで、今はお父様のお部屋でご夫婦でお話しされています』

マサさんとあっちゃんが会うのって意外に久しぶりなんじゃないだろうか。
あっちゃん、最近はさくら老健に面会に行ってなかったように思うから。
こうしてふたりの時間を過ごせるようになるのだとしたら、同じ老人ホームに入ってもらった意味がある。

『それで、お母様なんですがお部屋で新聞を読みたいとおっしゃっていて』
「はい、お支払いはさせていただきますので、ご手配お願いできますか」

なんだ、引っ越し前に解約しないで転居扱いにすればよかったのか。でもお金の流れもあるし、新規に契約し直したほうがわかりがいい。

『お父様のほうはお部屋に物がほとんどないので、ゴミ箱と時計、それから奥様がいらっしゃったときに座る椅子などがあったほうがいいかと思います。こちらで購入させていただいてもよろしいでしょうか。あとは部屋着も少し足りないので』
「まとめてお願いしてもいいですか。あれこれ申し訳ないです」
『それでは費用などは改めてご連絡します』

特に身のまわりのものは、わたしたちの側が「これがいい」と思うものと、介護側が「これがいい」と思うものに乖離がある可能性がある。コストや好みうんぬんの話ではないとわたしは思う。

ミズマキさんとの電話を終えて30分、今度はあっちゃんからの電話だ。

『マサさん、さっき来たわ』
「よかったね。話できた?」
『そうね。これからお昼ご飯だから』

マサさんとあっちゃん、別々の部屋だけれどもふたり一緒の暮らし。
おそらくは終の棲家での暮らし。

とても穏やかに始まったように思える。そしてこの穏やかな日々が続いていくことを祈るばかり、なのだが。

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