[083]
「しばらくはお母さんからしょっちゅう電話かかってくるかもね」
空港に向かう電車の中でそんな話をしているそばから、みぃさんのスマホが震え出した。
「本当にかかってきた」
空港まであと3駅。みぃさんは赤のアイコンをタップした。が、直後にまた着信。
繰り返すその様子を見て、申し訳ないがわたしは自分のスマホを機内モードに設定をした。次はわたしにかかってくるのは火を見るよりも明らかだ。
何度かの着信を経てようやく空港に到着、下車したホームからみぃさんが折り返した。
「ごめんなさい、電車の中だったの」
「うんうん」
「それはチェストの2段目にしまったよ」
「あった?よかった」
「はい。じゃあお元気で」
ちなみに機内モードを解除したわたしのスマホにも4回の着信が記録されていた。
「何だって?」
「パジャマがないって。3着も一緒にしまったんだけどね」
「たったあれだけの荷物なのに探せなかったのか」
「今までと環境が違うからかな」
よく考えれば、さっきまでみぃさんと一緒に部屋にいたことは覚えてたということだ。今日のところはそれで十分だ。
出発ロビーで最終案内を待つ間、あっちゃんの末妹のりつさんに電話を入れた。
「今日、父と母を老人ホームに入居させました。あとで住所などはお知らせしますけれど、新しい生活に慣れるまではしばらく静かにしておいていただけるとありがたいです。里心じゃないですけど、帰りたいなどと言われても困るので。はい、電話などは」
こちらとしてはていねいに伝えたつもりだが、やはり老人ホームに入居させたこと自体に納得がいっていないような話しぶりだと感じた。それはそうかもしれないが、こちらの決断を尊重するという意識はないのだろうか。
「親戚なんてそんなもんだよ。気にしてもしかたない」
憤るわたしにみぃさんが言う。そうなんだろうな。
暴風雨の中、わたしたちの乗った飛行機は予定どおりに着陸した。
空港内のレストランで遅い夕食を取りながら、ここまでのことをわたしは思い出していた。
あの日電話が通じなかったことも。
あの日マサさんが倒れたことも。
今にして思えば今日この日を迎えるための「いいきっかけ」だったんじゃないか。
そして。
感謝。
助けてくれた人たちに。
感謝。
そばにいてくれた家族に。
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