2025年2月19日水曜日

盤上の向日葵。

柚月裕子「盤上の向日葵」を読了。

縦軸に流れるのはひとりの棋士の「人生」。紆余曲折を経て、タイトル戦に挑む男。
一方で遺体とともに発見された「駒」はいったい――。


いや、すごいわ。とにかくグイグイ読ませる。それも斜め読みしちゃう感じてもなくて、しっかりひとつひとつが頭に残りつつもページをめくる手が止まらない。
こんなペースで読んだのって久しぶりだわ。とにかく「柚月さんさすが」としか言いようがないのでした。

「盤上」ってもちろん将棋の盤上のことだけど、「向日葵」ってのはどういうことなんだろう。
それが物語の終盤に次第に明らかになってくる。

向日葵ってさ、夏の明るい日差しの象徴のような花。
でも物語の中ではゴッホを引き合いに出しつつ、光が強くなるほどに強く濃くなる影の象徴として扱われる。

陰影。

当然のことながら棋譜も作中にたくさん登場する。駒の動かし方ぐらいしかしらない私にとっては意味不明な文字の羅列ではあるのだが、なぜか「見えてる気になる」。盤上の緊張感や緊迫感、棋士の息遣いさえも聞こえてきそうなのだ。
すごい。
音楽を扱った作品から「音が聴こえてくる」のと同じような感じ。

そして衝撃のラスト。
一瞬別のエンディングもあり得るのでは?などと思ったのだが、そうか、向日葵。ゴッホ・・・そう考えるととんでもなく腹落ちした。

とにかく、こちらの気持ちも昂る読書時間だった。

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ところで作中では七冠に挑む天才棋士によって空前の将棋ブームが巻き起こっているという設定になっている。時期的には当然羽生善治がモデルだろう(巻末の解説も羽生さんだった)
が本書が出版されたちょうどそのころに藤井聡太がプロデビューする。そして今、さらに空前となる将棋ブームが巻き起こっている。見る将なんて言葉も生まれるほどに。

そういう運命のようなものも。


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