“映画化決定!”なんていう煽り文句を見かけましたので、横山秀夫「影踏み」を読んでみました。
横山秀夫というと、枕詞に『警察小説の旗手』なんて言葉が付くことが多いですけども(最近だと「ロクヨン」あたりが有名ですが、個人的には本よりもテレビドラマの原作として見てるほうが多いかな)、ことこの本については警察に対峙する泥棒が主人公だ。といっても、警察にとってみても「おなじみさんの泥棒」なので警察内部も描かれますけどね。
主人公・真壁修一はノビ師、すなわち家人が寝静まった後に在宅にも関わらずその家に侵入し窃盗を働く者――ノビカベという通称を持つ。
出所したばかりの彼の周囲で起こる「事件」を、彼の洞察力・行動力と、彼の中に存在する別人格の記憶力によって真相を暴くという物語(連作)だ。
物語全体のトーンは静かだ。そりゃまあ泥棒が謎解きをするんだから、告発するでもなく、犯人が捕まえるようなものでもないからね。
じゃあなぜ真相を暴くのか。
修一の脳が疼く。自身が納得するためだけに生きているようにも映る。
やがて、彼と、彼の中の別人格との関係性を守るためではないかと思う。読み進めていくうちに、そう思った。
“2人”の関係性を示すこんな一文があった。『(略)互いの影を踏み合うように生きているところがある』。
互いの影――。
そしてさらに、彼らにまつわるひとりの女性との“3人”の関係性を守るためではないのか、そんなことも思う。
ミステリーとして謎を解きながら、そうした関係性をどう昇華させていくのか。読み応え十二分でした。
ラストシーン。修一と影の関係性に変化が訪れ、そして新たな関係性に向けて夕闇の中、修一は自転車のペダルを踏む。
『影は、濃さを増しながら、どこまでもついてきた。』
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