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2025年7月9日、マサさんが入院しているよしだ内科の看護師さんから電話がある。
『貧血がひどくて、3日間輸血を行いましたのでそのご報告で』
「ご連絡ありがとうございます。実際のところどういう状態なのでしょうか」
『先生に電話を代わりますね』
ついこの間病室を移ったという連絡をもらったばかりだった。そのときは症状の話はまるでなかったのだが。
電話は医師につながった。
『もしもし。お父様なんですけど、なかなか栄養が取れていなくて、そうすると血液も作れなくなってしまっているということです。年齢も年齢なので、いわゆる老衰ですね。そろそろ施設のほうに戻って看取り、ということも考えてみてもいいかと思います』
「わかりました。施設のほうとも相談してみます」
いよいよ、か。
だがこの時点ではわたしの中には切迫したように気持ちは生まれてはいない。
手続きがいろいろありそうだということと、早く老人ホームに戻れたらいいなと考えていた。
幸いにしてグッドライフでは終末期ケアもできると聞いている。
翌10日には相談員のマツイさんに医師との話を伝え、看取りという方向で病院側との調整を依頼した。最終的には病院と施設、そして家族との三者間での契約を締結することになるようだ。
そして11日金曜日。
仕事を終え帰宅途中のわたしのスマホに、よしだ内科からの着信がある。このごろは通常時はマナーモードの設定はしていない。こういう電話に確実に出たいからだ。
『お体のほうに栄養が入っていかないので、いつ何時急変してもおかしくないという状態です。おしっこも出ていないので厳しいです。それでご本人に会わせたいという方はいらっいますでしょうか』
「会わせたいというと母ぐらいなのですが、グッドライフ中央公園におりますのでちょっと調整は必要になると思います」
この時点では緊急ということではないようだが、それでも対応できることはしておかないとならない。
まずはグッドライフに連絡。だがすでにスタッフの方が夜間体制になっているので、あっちゃんを病院まで引率してくれる人手がないという。翌朝からの対応をお願いし電話を切った。
わたし自身は再びオフィスに戻って翌週の仕事、それも絶対に準備しておかないとならないであろう仕事を片付けることにした。
仕事は遠隔でもある程度はできるだろうが、突発的かつ長期の休暇を取らなければならない事態に備えるために。
翌土曜日、朝からグッドライフのスタッフさんの引率であっちゃんがマサさんのところに見舞いに行った。
『お母様を病院までお連れして、今日は2時間ほどベッドの横にいらっしゃいました。お母様の声に反応はされてましたけど、その反応は鈍いように思います』
スタッフさんからの報告は、看護師さんの言う「厳しいかも」という状況を裏付けするものだった。でもあっちゃんが久しぶりにマサさんの顔を見られたのは何よりだ。
わたし自身はこの日予定していた友人との約束もキャンセルさせてもらい、そして不謹慎かとは思ったが、喪服を用意し、そしていざというときに持って出たほうが良さそうなものをひとつにまとめたりの準備をしていた。
何かしていたほうが気が紛れる。
そしてその週末はこれ以上の連絡が入ることもなく、静かに過ぎていった。
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