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『合掌、礼拝』
通夜が始まった。列席しているのは家族と親戚、合わせてわずか7人。
それなりに大きな職場で仕事をしていたマサさんのことだから、関係者に声をかければあっという間に大人数になったのだとは思うが、リタイアしてもう長いから義理だけで来てもらうのは心苦しいし、おそらく本当の意味で同僚と呼べるような人はほとんど先に逝ってしまわれている。
だからこれでいい。本当に最後にお別れを言うのは家族だけでいい。これはわたし自身がずっと考えていたことでもある。
焼香の時間だって短時間ですむ。あっちゃんの体調を考えても、これでいいんだと思う。
読経を聞きながらわたしは、祭壇に置かれた遺影を見つめていた。
何も考えていなかった。ただ見続けていた。
『なーんまーんだーぶー』
読経が終わり、一瞬斎場に静寂が流れた。そしてこちらを向き直ったお坊さんの法話に、わたしたちは耳を傾ける。
人はなぜ生まれ、そして死にゆくのか。
こうした話を、おそらく今までで一番きちんと聞いたのではないだろうか。そしてちゃんと意味を噛みしめたのではないだろうか。
後日その話を息子たちとしたのだが、やはり彼らにも法話の内容はそれなりに残っているようだった。
やはり家族にとっての一大イベントだったのだと改めて思う。その点においてもマサさんに感謝しないとならないな。
夕食を共にした後、ヤスおじさん夫妻はホテルに向かうという。
本来なら「お車代」などということも考えなければならないのだろうが、渡したところで拒絶されるのは目に見えている。
「タクシー、呼びますから」
配車アプリを使って呼んだタクシー代は、そのアプリ内で決済しておいた。
「いる・いらない」の妙なやりとりをすることなく、実費をこちらで負担する文字どおりの「お車代」。これはいい方法だったと思う。
さらにもう1台。あっちゃんをグッドライフまで送り届けなければならない。
「疲れたでしょ。明日もあるから今夜はゆっくり休んでね」
「そうね、そうするわ」
道すがら、何の変哲もないそんな話をしつつ。
グッドライフの正面玄関はすでに施錠されていたが、インターホンでスタッフの方に開けてもらい、あっちゃんを引き渡した。
「また明日ね」
わたしは待たせておいたタクシーに乗り、再び斎場に戻った。
葬儀社の方と翌日の段取りなどを最終確認し、改めてタクシーを呼んで家族4人、今夜のホテルに向かった。
インバウンドの方々でごった返すフロントを抜け、ベッドにたどり着いた。
明日の葬儀は午後から。だから朝はチェックアウトのギリギリまでゆっくりすることにしよう。
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