[070]
みぃさんに生命保険関係の書類の取りまとめを頼んで、わたしは雑然としている電話台周辺の整理に向かった。マンションの鍵が置かれていたりする場所なので、何か重要なものがあるかもしれない。
ほとんどがゴミでしかない書類の中で、「マイナンバー」と書かれた封筒が出てきた。中を見てみるとマイナンバーカードを作成したときの控え、暗証番号が書かれている書類である。なぜかマサさんの分はなく、あっちゃんの分だけ。
「あれ、この暗証番号、こないだ聞いたのと違うね」
「あらそうだったかしら」
マサさんのマイナンバーカードの暗証番号は確認済みだ。その番号を聞いたときに、あっちゃんのほうも聞いたのだが、その番号と齟齬がある。
「ちょっとコンビニ行ってくる」
コンビニの端末で、あっちゃんのマイナンバーカードを利用して住民票を発行してみる。当然だが書類に書いてあった番号が正解だった。
覚えやすい番号にするのはやめましょう。そう言われるし、そうあるべきだとは思うんだけども、認知症に対してはすごくセンシティブだ。難しいな。
マンションに戻って電話台の整理を続ける。重要な書類のようなものは見つからないが、大量の小銭が出てくる出てくる。数百枚、いや千枚以上はあるか。
マサさん、いつも出掛けるときにはジャケットのポケットに小銭入れを入れていくくせに、家に帰ってくるとポケットに小銭が直接入ってて、それを無造作にその辺に放り出してた。同居してた昔のことを思い出す。
お、これは昔の家計簿か。几帳面とは程遠いあっちゃんがつけてたのか。それにしてもこんな何冊も何冊も、まるでパズルのように棚に押し込められてる。一度出したら二度としまえないだろう。それでも出してみるしかない。
パラパラとめくっていたみぃさんが家計簿に挟まってた封筒を発見した。
「これ・・・」
「えっ」
封筒の中から出てきたのは現金。表書きから想像するに、何かの支払いのために封筒に入れておいたものではないだろうか。察するに支払いは普通に財布から出してしまい、封筒は帰宅してなんとなくここに挟んだ、ということじゃないかな。
ヘソクリとは思えないけれど、この後も現金の入った封筒はいくつか見つかることになる。
一応本人たちの今後の生活費のためにわたしが預かることにしたのだが、これはもう無頓着を通り越して、杜撰だな。わたしは苦笑いをするしかなかった。
家計簿周辺はみぃさんに任せて、わたしはマサさんの部屋に向かった。
これまでも何度か見てはきたがマサさんの物置と化した部屋、とにかく今回は端から端まで。そう決めていた。
カラーボックスに入れられた封筒。表には「○○の書類」と書かれていて、一見きちんと整理されているようには見えるが、封筒の置かれている場所に一貫性がなく、さらには中身が違ってたりしている。覚悟を決めてひとつずつ見ていく。
「ん、あっ」
変な声が出た。これこそ探し求めていた書類。ついにマンションの権利書(登記簿)が入っている封筒を発見した。
なぜか別の封筒に、売買契約書も。
絶対に見つけたかった書類が、初日の午前中のうちに見つかった。このマンションに頻繁に来るようになって、一番うれしい瞬間だったかもしれない。
わたしはリビングに向かって大きな声を上げた。
「見つかったよー」
0 件のコメント:
コメントを投稿