2024年12月31日火曜日

翳りゆくひと。[073]


[073]

5月26日日曜日、片付け2日目。

今日もなかなかあっちゃんの荷物の準備は進んでいかない。
それでも、あっちゃんとみぃさんが話しながら、少しずつ少しずつ。やはり身に着けるものの準備は女性同士じゃないと。わたしには絶対にできないことだったと思う。

一方わたしは、今日もマサさんの部屋にこもっていた。
前日マンションの権利書を発見したので、もう「部屋ごと処分」でもよかったのだが、懸案のひとつである「ゴルフ場の会員権」は可能であれば発見したかった。
そしてもうひとつ。以前マサさんは国から表彰されている。その際に授かった記念の品がどこかにあるはずだ。本来ならリビングに飾ってあっても良さそうなのに見当たらない。わたしも現物を見たことがないのだが、きっとどこかに。
遺跡を発掘するかのように奥へ奥へと進んでいく。

「見つかった?」

ちょっと疲れてしまったあっちゃんを休憩させて、みぃさんが部屋に入ってきた。

「本当になんでもかんでも取ってあるね」

床に散らばった封筒の中身を出しながら言う。本当にそのとおりだと思う。もちろん捨てることが必ずしもいいというわけではないだろうが、保管するならもう少し整理しておいてほしかった。

と、みぃさんの手元の封筒から出てきたものにわたしの目が止まった。

「あ、それって」

それは1台のスマートフォンだった。この白い保護ケースは、行方不明になったまま回線を解約した、マサさんのもので間違いない。
そしてそのスマホが入っていた封筒からは、同じく去年から所在がわからなくなっていた身体障害者手帳も。

その封筒に入っていたのは、大枠で2023年1月から2月にかけて届いた郵便物。当時のマサさんの行動を想像すると、リビングテーブルの上に置いてあった郵便物をばさっとまとめてひとつの封筒に入れて、この部屋に持ち込んだ。その封筒に入れるときに、テーブル上にあったスマホも手帳も何もかもまとめて入れ込んでしまったんじゃないだろうか。

障害者手帳は老人ホーム側からも提出を求められていたもののひとつなので、見つかってよかったけども、なんだか笑うしかない。
わたしの集中力も切れてしまったような感じだ。

「そろそろお昼、買ってくるよ。休んでて」

そうあっちゃんに声を掛け、最寄りのスーパーまでみぃさんを伴って買い出しに出る。

「ほら、ここに売ってるでしょ」
「ほんとだ」

総菜コーナーの脇に積み上げられているカップ味噌汁。昨日室内から大量に見つかったものとまったく同じものだ。ここに来るたびに1つ2つと買い求めてたあっちゃんの姿を思う。

「本当に食事、作らなくなってたんだろうね」

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