2026年10月9日金曜日

翳りゆくひと。[154]


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8月最初の日曜日、わたしはあっちゃんの暮らす街に向かっていた。
手術も無事に終わっていたとの連絡をもらっていたので、何か気が急くようなこともなかった。
ただ窓の外を眺めながら静かに到着を待つ、そんな感じだった。

最初に向かったのは老人ホーム。
現状の確認、2週間程度で予定される転院の手続き、そのあたりを打ち合わせしておきたくて、アポを取っておいたのだ。

対応してくれたのはマサさんの葬儀前後でもお世話になった相談員のマツイさんとあっちゃん担当のケアマネのサダシマさん。

「今回は急なことで対応いただき、いろいろありがとうございました」

まずは当日の様子などを教えてもらった。

「最近は同じフロアでよくお話しされている方も増えてて、あの日の朝も『転んでらっしゃるわよ』と入居者の方からお知らせいただいて」
「そうですか。そういう方ができたのであればよかったです」
「入院されて、皆さんさびしいとおっしゃってますね」

元気でにこやかにすごしていたということだったので、その生活を続けられれば一番良かったのだろうが、そこは今言ってもしかたがない。

「それで、病院のほうからは2週間ぐらいで転院することになるだろうと言われています。リハビリ病院の希望も聞かれましたか、もちろん何のつてもありませんので、施設の方とご相談くださいと伝えておきました」
「はい、かしこまりました。病院とも連携取りまして、転院先やリハビリの計画など、こちらで調整をいたします」
「それで、2週間後というとちょうどお盆の時期になりますので、おそらく私が転院の際に立ち会うということはできないのではないかと思います。手続き含め、すべてお任せしてしまってよろしいでしょうか」
「もちろんです。転院の際に使うのがストレッチャーかリクライニング車いすか、あるいは病院の車なのか介護タクシーなのか、そのあたりも含めて打ち合わせをしていきます」
「介護タクシーなどで費用が発生するようでしたらご請求いただければと思いますので、コスト面は気にせずご対応ください」
「入院時の書類も、代筆で問題ないようでしたら対応します。もしご家族でないと、という話が出ましたら郵送などで対応してもらうように依頼しますので」

手厚い。本当に手厚い。他の施設のことはわからないが「手続きはご家族がしてください」なんて言われるケースもありそうなのに。
老人ホームにこの施設を選んで本当によかった。

「年齢のこともあるのでご心配でしょうが、こちらではもしも車いすでの生活になったとしてもきちんと暮らしていただけますので大丈夫ですよ」
「はい、その点は安心しています。そういえば母、明日誕生日なんですよ」
「そうでしたね」
「まあ87歳ですからいろいろとあることも考えておくようにします」

そうだ、聞いておきたいことがあったんだった。

「そういえば先日電話で『マンションはどうなってるんだろう』なんて話を持ち出してきました。もう1年ぐらいはその話は出てなかったので少し驚きましたが、これまでは『もうマンションには戻れないから』と繰り返し説明をしてきたのですが、実際問題、どう対応するのがいいのでしょうか。プロの方のご意見をうかがいたくて」
「否定されると自分が間違っているのかと強く落ち込んだりすることがありますので、基本的には肯定というか、話を合わせるようにはしています。たとえば『マンションに戻って何がしたいの?』と問いかけてみたりとか、単純に肯定するわけではないけれど話には乗ってあげる、みたいな感じですね」

なるほど。これは勉強になるな。
ついつい否定から入ってしまうからな、できるだけそういう対応を心がけるようにしてみよう。

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