2025年9月12日金曜日

翳りゆくひと。[114]


[114]

グッドライフ中央公園において、面会者に許された時間は30分である。
正直なところ、ここに来るまで30分なんて会話がもつのだろうかとわたしは心配していたのだ。だが、近況を聞き、昔話に花を咲かせ、記憶違いをひとつひとつ訂正し、とやってると30分なんて案外短い。

「あ、もうこんな時間だ。面会、おしまいだよ」

もちろん名残惜しい気持ちはある。だがそれ以上に「ルール違反をする家族」というレッテルを貼られるほうがよくない。わたしのほうの都合ではない。これから永く暮らしていくであろうあっちゃん、そしてマサさんのためなのだ。

あっちゃんはエレベーターホールまで見送ってくれた。1Fまで行くと言い張った10ヶ月前と違って、「じゃあここでね」とわたしに手を振った。
もしそれが「ここの住人になった」ということの証であるとするならば、わたしにとっては望外の喜びだ。

下りのエレベーターにはスタッフの方が乗り込んできた。あっちゃんを担当してくれているスタッフさんとケアマネさんである。
家族との細かい話は入居者本人に聞かせないようにするという配慮だろう。

「いつもお電話ではご対応いただいてありがとうございます。今日はお目にかかれてよかったです。こちらの対応を認めていただいて大変助かってます」
「いえ、家族がいいと思うものとスタッフの方が必要だと思うものには乖離があると思いますので。むしろいつも細かくご連絡いただいていてこちらがありがたく思っています」

かっこいい言い方をしているが、わたしにとっては本音でもある。

「それでですね、お母様の希望の化粧品が出入りの店には置いてなくて」
「わがまま言って申し訳ないです。なんらかの形で入手できるのであれば費用はかまいませんので」

むしろ、そこまで面倒をみてくれるのかと驚くばかり。本当に親身になってくれてるんだなと思う。

「あ、そういえば先週、母のスマホから花見に行ったと写真がメールで送られてきたのですが、あれは」
「あれはうちのスタッフがお母様のスマホをお借りしてなんとかご家族に、ということでお送りしたものです」
「そうですよね。そうじゃないかと思ってました」

ケアマネさんからはマサさんの状態の報告があった。

「スタッフがよしだ内科病院にお見舞いに行って、お父様状況の確認もしているのですが、今現在は吸引の必要があったりして、なかなかすぐに退院というわけにはいかなさそうな状態のようです」
「そうでしたか。これから病院も行こうと思っていますのでそちらでも聞いてみたいと思います。ありがとうございます」

ケアマネさんとの話を終えて施設を出ようとしたタイミングで、相談員のミズマキさんとも会うことができた。

「おかげさまで父の不動産のこととか、すべて解決しました。引き続きよろしくお願いします」

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