2025年7月25日金曜日

翳りゆくひと。[103]


[103]

グッドライフから電話がある。相手が看護師の方だと少し身構えたりするが、いつものスタッフさんなら変に緊張することもなくなった。

『お母様の靴と、それから靴下を購入させていただきたいのですが』
「はい、お願いします」

靴は入居の際に履いていったものしかないはずだし、老人ホームでの生活を考えればいわゆる高齢者向けの靴を用意してもらうことに越したことはない。

『あとはお父様の冬服ですね。少し足りないようですので』
「もちろん問題ないです」

いつの間にかそういう季節になってたか。特にマサさんは着の身着のまま入居だったから、服は足りないんだろう。

『それでお母様ですが、いろいろとレクリエーションにお誘いしているのですが、あまり参加いただけなくて』
「そうですか。変にプライドが高いところがあるので、そういうこともあると思います。無理強いはできないですが、引き続きお誘いいただければと思います」
『わかりました。先ほどはお父様といっしょに、おふたりでおやつを召し上がっていらっしゃいましたよ』

レクリエーションなどの機会に自室から広いフロアに出て、そこで入居者どうしの顔見知りができて、そして話し相手ができればさらに老人ホームでの生活が充実するのではないかと思うのだが、なかなか思うようにはいかない。
でもそれはわたしの勝手な希望でしかない。本人がいいように暮らしてくれることが優先なのだろう。

そんなあっちゃんから、久しぶりに電話があった。

『お友達がこの病院に面会に来たいって言ってるんだけど断られているの』
「その話は前にも聞いたよ」

おそらく聞くのは3回目だ。

『家族だからって嘘ついてもいいから』
「嘘をつくのはだめだよ」

ついつい子供を諭すような口調になる。
実際問題、面会を単純に断られるようなことはないはずだし、何かあればわたしに連絡が入るはずだ。おそらくは自分のいる場所を説明できてないだけなんじゃないだろうかと疑う。あるいはその友人との会話を頭の中で作り上げているか。

「それと、そこは病院じゃなくて老人ホームだよ」

これまでなんとなくぼかして話すことも多かったのだが、もう半年近く経つのだから、老人ホームに入居したのだという現実を繰り返し説明しようとわたしは考えていた。

そんなやりとりのあった2024年11月、同居の義母に圧迫骨折が見つかった。治療のため、今年2度目の再入院をすることとなった。リハビリ含め、こちらも長くなりそうな予感がする。

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