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6月13日、マサさんのマンションから送ったダンボール7箱がわたしの自宅に届いた。
少し時間がかかったのは、すぐに宅急便などで発送したわけではなく、いったん引っ越し業者――マンションの後片付け(原状復帰)を担当してくれる業者さん――を経由したため。特に急ぐものでもなかったので、なりゆきで対応してもらっていたのだった。
まずは光回線の機材を探して、指定の返送用キットを使って梱包そして発送した。これで電話関係の解約処理も終了だ。
あとは書類関係、食料品、日用雑貨、あっちゃんから押し付けられた実質的には不用品程度に雑に分類だけして、ゆっくりと片付けることにしよう。
7箱もあると家の中では邪魔でしかないけれど、正直なところがんばってすぐに整理しようという気にはどうしてもならなかったのだ。
翌日、仕事中のわたしにグッドライフのスタッフさんから電話が入る。
『お父様なんですが、今日ベッドから転落されて。でも外傷もありませんし、ご本人も痛みは訴えられていません。今は経過を見ています』
「ご連絡ありがとうございます。寝返りとかそういうことでしょうか」
『はい、寝返りをしようとしてバランスを崩したものと思います。今後はベッド柵など、配慮していきたいと思います』
前にも似たような話があったな。特に問題なかったようなので気にするほどでもない。
その週末、日曜日は父の日だった。
父の日には妻が欠かさずマサさんにプレゼントを贈っていてくれている。宛先の住所こそ変わったが、今年も服を贈ってくれたようだ。
そして次の月曜日。仕事中のわたしのもとに妻からのメッセージが届く。
『今、ポロシャツのお礼の電話が来た』
『お母さんからで、こちらは暑いですって言ったら、「暑いらしいわね、ここにいると快適だからわからないわ」って』
『住まいが快適ということじゃなくて、室温が快適ってことよね?』
そうだろうな。今の段階でこの老人ホームそのものが快適って言うわけないよな、残念ながら。
『お父さんとも電話代わった。「こっちは歳ばかりとって」ってみたいな会話した。誕生日じゃないのにね』
なんだかものすごくほっこりとしてしまった。
そのマサさん、その週にもベッドから落ちたそう。
ケガさえなければ元気な証拠。わたしはそう思っている。
ところで、マサさん宛の転送された郵便物の中にNHKからのものがあった。
なんだろうと思って読んでみると、要するにこれまでケーブルテレビの契約があったから、NHKの受信料もそのケーブルテレビ会社が支払っていたと。それを解約したものだから、ちゃんと個人で払ってね、という話のようだ。
あっちゃんの部屋にマンションからテレビを移設したことはこの際ちょっと横に置いておくとして、マサさんの部屋にもテレビは、ある。テレビを部屋に置く話をグッドライフ側とした際には受信料の話は出なかった。どうなんだろう。
ざっと調べてみると特養(特別養護老人ホーム)では免除されるみたいなこともあるようだが、一般の老人ホームははたして。
問い合わせ先に電話して事情を話し、いったん別の窓口に掛け直させられて再度同じ話を繰り返すことにはなったのだが、折り返しの連絡があって、結論としては施設側が払っているので個人契約は不要というところに落ち着いた。
だが、マサさん名義の契約が残っている形になっているので、指定書類による退会届を提出することとなった。
わたしは受信料について払うべきもの、という認識をしているが、いざやめるとなると手続きそれなりに手間なのだった。
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