2025年12月19日金曜日

翳りゆくひと。[129]


[129]

妻と息子たちは火葬場から直接空港に向かい、帰路についた。
わたしはもう1日、現地に残ることにした。役所関係などの事務手続きを少しでも終わらせておくために。

軽くなったマサさんを抱え、あっちゃんとともにタクシーでグッドライフに向かう。

「みんなはどうするの」
「タクシーで空港に行ったよ。仕事も学校もあるし、今日のうちに帰らないとならないから」
「そう。みんな忙しいのね」

葬儀という特殊な状況だったとはいえ、あっちゃんにとっては久しぶりに子どもと孫が集まる機会だったから、名残惜しいのはなんとなくわかる。
今後も集まる機会がそう頻繁にあることではないだろうし。でも、家族とはいえ、それぞれの生活はあるから。冷たいようだけれど、それが実際のところだと思う。

「着いたよ、気をつけて降りてね。あ、ちょっと待ってて」

グッドライフの入口の外で遺骨と遺影を大きな紙袋に入れ、上から上着をかけて目隠しした。
事前に相談した際に、遺骨を持ち込むときには目立たないようにしてほしいとの依頼をされていたためだ。老人が多く暮らす施設という状況、そして短い期間ではあるもののマサさんのことを認識している人たちもいるはず。そうした方々に感じる必要のない不安を覚えさせないための配慮だと理解した。

「ただいま戻りました」

スタッフの方々に挨拶し、あっちゃんの部屋まで向かう。

「お疲れ様。遺影はどこに飾ろうか」

決して広いとは言えないあっちゃんの自室だが、棚の上に遺骨を置き、そして写真立てがいくつか置かれた場所に遺影を飾った。
遺骨を室内に置くことについては了承してもらっている。

葬儀社の方とも話をしたのだが、墓が決まっていない段階では「お母様のところに置かれて、ご一緒にお墓に入るのがいいと思いますよ」というアドバイスももらっていた。
そしてまだマサさんが元気だったころ、墓は永代供養のできるマンションみたいなところでいいと言われていたので、当面はあっちゃんの部屋にいてもらうことにしようと思っている。

ふと時計を見るともうそれなりの時間になっていた。

「そろそろ晩御飯の時間だね。だから、今日は行くよ」
「そうなのね」
「とにかくまずはゆっくり休んで」

わたしはグッドライフを出たその足で銀行に向かった。もらっていた請求書に従って、ATMから葬儀費用を送金した。後回しにしないでひとつずつ処理は終わらせていきたい。

さらに連絡していなかった親戚――マサさんから見ると甥――に家族だけで葬儀を終えたことを電話した。特に気は使わなくていいから、と言い添えて。

もう一件、マサさんの元職場の関係の方にも電話を入れた。昨年老人ホームに入居した際に、何をどう調べたのかわたしに連絡してきていた人だ。

「念のためご連絡だけと思いまして。家族だけで送りましたのでどうぞお気遣いなく」

だがこの人からはその日の夜、改めて電話がかかってきた。
どうやら、自分の立場としては何もしないでおくわけには行かないみたいな主張だった。
よくよく聞いて思う。あなたの言っていることは、あなた自身の体面であってお悔みではない。マサさんがリタイヤした後、ろくにコンタクトもしてなかったくせに死んだときにだけコネクションを主張するな。

「すべてご遠慮申し上げますので。はい、失礼します」

静かにしておいてほしい。

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