[098]
7月下旬のとある休日、わたしは妻とともに自家用車にダンボールを積み込んでいた。
マンションを引き払う際にあっちゃんから託されたバッグや貴金属類を買取店に持ち込んで処分しようということになったのだ。
昨今、近所でも買取店の新規オープンが続いているが、わたしたちと同じように家財整理を必要としている人が多いのだとすれば少しだけ寂しい話でもある。
「もしも後で何か聞かれたときのためにこのネックレスだけは取っておこうかな」
そういう妻がいくつか店舗を事前に回ってみてくれていた。そして扉を押したのはいわゆるフランチャイズではない店である。
「あの店がいちばん親身になって話を聞いてくれたから」
予想していたように、ブランド品といってもいわゆるトップブランドのもの、しかも状態が良く人気のモデルでなければ、バッグなどはそう大層な金額にはならない。それでも数があるから多少なりとも金額は積み上がっていく。
一方で貴金属は、たとえばデザインが古くとも宝石そのものの価値はある程度見てくれるということもあるようだ。
が、結局のところ査定に最も影響があったのは金の含有量。単純だがなかなか世知辛い話である。
「そうですね、金相場、今は高騰はしていますが、今後も上がり続ける保証は」
「わかりました。特に資産として持っておこうという気もないので、買取、お願いします」
実は持ち帰ってきた中に、昭和60年に発行された金貨が1枚あった。イベント好きかつ新しもの好きのマサさんらしい一品だ。そして買取総額の大半をこの金貨の査定額が占めることとなった。
査定に半日を要した後、わたしたちの手元には多少の現金が残った。
「このお金どうしようか」
「すぐに必要ってわけでもないから、あまり使ってない銀行の口座に入金しておこう」
「そうだね、何かのときに使えるように」
あっちゃんからはもらってくれと言われた品々ではあるが、さすがにそのまま現金として使ってしまう気にはなれなかったのだ。
そうして帰宅して、転送されてきた郵便物を確認していたのだが、その中にマンションでのガス代の最後の請求書が入っていた。
「ようやくこれで最後か」
ふと気になって、ファイルしてある最近の請求書と見比べてみた。
すると2023年7月から極端にガスの使用量が減っているということがわかった。ちょうどマサさんが脳梗塞で入院したタイミングと一致する。
ひとりになったあっちゃん、料理をしなくなってしまっていたのか。風呂にも入らなくなっていたのか。
生活状態が悪くなるサインという意味では、こういうところが意外に重要なポイントなのかもしれない。
完全に今さらなのだけれど。
そのあっちゃんが風呂場で転倒した、という連絡がグッドライフから入る。
「肘を打っただけで特に問題ないです。様子は見ていますので」
もしこれがひとり暮らしのときの風呂場だったら。想像したくはない。
0 件のコメント:
コメントを投稿