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棺を乗せた寝台車の後部座席にあっちゃんを座らせ位牌を持たせた。わたしは遺影を持って助手席に座る。
「それでは出発いたします。住宅街ですのでホーンは鳴らしません。ご了承ください」
白い車は静かに出発した。
運転をしている方と少し会話をしたような気がするのだが、内容はまるで覚えていない。住宅街から郊外に向かって走る車窓をただ見つめていた、その記憶しかない。
15分ほど走っただろうか。車は市営の大きな火葬場に到着した。
まずはわたしと葬儀社の方が受付に向かい、死亡届の提出の際に受け取った火葬許可書と、火葬費用としての2万円を納める。受付を済ませてはじめてマサさんを車から降ろすことができる。その手順はなんとなく理解できるのだが。
むしろ驚いたのは火葬費用がキャッシュレスでもいいというところだった。
そこから先は言葉は悪いが、流れ作業である。
位牌を抱いたマサさんの入る棺が扉の向こうに押されていく。
「合掌をお願いいたします」
係員の方が扉を閉めた。遺族が火葬ボタンを押すという大仕事があるのかと思っていたが、ここではそのようなことはなかった。
「1時間半ほどかかりますので、皆様はこちらの待合ホールでお待ちください」
そのとき、あっちゃんがソファにへたり込んでしまった。いろいろと限界だったんだと思う。
少し横になってれば大丈夫だというので、冷房の効いた畳敷きの待合室を手配してそこで休んでもらうことにした。りつさんに付き添いをお願いした。
「煙突から煙が立ち上るのを見る、みたいなイメージあるけどさ、そういうところもないんだね」
館内の案内図を見たり、水分補給をしたりしながら、わたしたちも何をするでもなくただ待った。長い長い1時間半だった。
『・・・収骨室5番までおいでください』
館内アナウンスに促され、控室にいたあっちゃんを伴いつつマサさんのところに向かう。
「骨太だったんだね」
大腿骨や上腕骨はもちろん、あばら骨も元の状態が想像できる程度には形が残っている。あれは奥歯か。大したもんだな、昭和ヒトケタって。
係員の方の説明を聞き、骨を拾っていく。最初はあっちゃんとわたしがふたりで大腿骨を砕いて、箸を合わせるようにして骨壺に入れた。
下半身から上半身に、家族みんなで少しずつ。
まだかなりの量が残っているが、もう壺の容量がいっぱいになりそうだ。
あご、頭、そして最後にきれいに形の残っていた喉仏は、わたしが納めた。
「それでは以上になります。最後に合掌をお願いいたします」
終わったか。あっけないな。
「代表者の方は」
「はい」
「こちら、火葬証明書になります。埋葬時に必要になる重要な書類ですので、なくさないよう、骨箱の中に入れておくようにいたしますので」
「ありがとうございました」
きれいなカバーに包まれた骨箱を抱きかかえた。軽くなっちゃったな。
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