文庫になるのを待ちわびてました。宮島未奈「成瀬は天下を取りにいく」。
『わたしはこの夏を西武に捧げようと思う』
作中、主人公成瀬あかりは一人称で語らない。
だがこのセリフから始まる最初の数ページで彼女の人物像がわかった気がする。
成瀬あかりは一人称で語らない。
だから彼女のある意味突拍子もない行動の源泉がまるでわからない。
わかったようなわからないような、これこそが成瀬の魅力であり、本書の魅力なのだと思う。次に何が起こるのか期待せざるをえないのだ。
だから彼女を見守る友人の島崎と同じような気持ちで、その行動を追い、見つめ続けていく。
自らの「平凡」だと自称する島崎こそが平々凡々な私の読者としての目線なのだ。
天才か異才か。奇人か変人か。
こんな人になりたかったか。こんな人にはなりたくなかったか。憧憬か畏怖か。
友達になりたいか。近づきたくないか。
たぶん、遠巻きに見続けていたい、そんな距離感。
・・・ネタバレするぞ。
そしてその距離感がとっちらかっちゃった西浦くん(^^;
わかるぞ西浦、わかるぞ君の気持ちは。 理解できないけど魅力的なもの、好きだと思っちゃうよね。うんうん。
が、最終章である。成瀬が一人称で語る。
いや、1.5人称ぐらいで語ってるかな?
もちろん、最も身近な存在である島崎ありきの話である。友人の存在を大切に思っていた成瀬。ただの変わり者ではなかったのだ。
そうか、そういう想いもあったのかぁ、と島崎の気持ちで読んできたこちらとしては、ぐっとくるものがあるわけさ。
あ、涙が出そうになったのは酒のせいだからな。
「ゼゼカラ、解散しないんだ」
嬉しくてこぶし握ったよね(笑)。
・・
・・・
ところで『天下を取りに行く』というタイトルを付けた人、天才か。
著者本人か編集者か知らんけど、成瀬は本人的にまっすぐ生きているだけで特に天下は目指してない。
もし僕なら『成瀬あかりの日常』とか『成瀬のこと』とか、そのぐらいしか思い浮かばんもん。でも「天下」で正しいような気がするのが成瀬あかりという人物だから。
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